2018年4月に7ステージレース「Tour of Watopia」が開催されたのですが、
それに合わせてWatopia開発秘話が公開されました(こちら)
Watopiaに秘められたストーリーを知ることで、
それぞれの景色に愛着を感じながら走ってもらえたら、との想いです。
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目次
第一話 ZWIFT開発初期の話@ジャービス島
2014年10月28日にZWIFTが立ち上げられた際、最初のコースとしてStravaセグメントが一切つくられていない南太平洋に位置する、周囲5kmほどの小さな島「ジャービス」が選ばれました(2015年4月に仮想の島Watopiaへと移行。Stravaの記録が残る現実世界の場所は、ソロモン諸島の島「ナウノンガ」)。
当時、スペインのプロサイクリスト「Ted King」がβテスターとしてZWIFTを利用していました。ですが、まだほとんどZWIFTが知られていない状況。彼のSTRAVAを見たサイクリスト達は、Ted Kingのジャービス島を走っているSTRAVA記録を見て、「なんでスペインにいるはずの彼が、こんな辺境の島を走っているんだ?」と混乱したそうです(笑)
もう一つパワーアップアイテム「Breakaway Burrito」について。ルーレットが回っているときにチラチラ見えますが、決して当たることはありません。効果は「10秒間、自分の後ろに付くライダーのドラフティング効果を無効にする」。
これが廃止されたのは、2015年12月30日にZWIFTが正式リリースされてからしばらく経った頃。無くなった理由は「使いどころが少ないから」だと思っていたのですが、一番の理由は「楽しくグループライドしている際に、後ろを走る人を苦しめるようなアイテムはあんまりだろう」というZWIFTスタッフの心遣いがあったからだそうです。
第二話 建造物を製作する職人とその裏話@Big Loop
ZWIFT内の橋や建物は、日本人のMorishima Takashiさんという方がデザイン・作成されているそうです。そのため、仲間からは親しみを込めて「the bridge-guy」と呼ばれています。
Epic KOMの途中、ドイツ村を抜けた先にあるお城のモデルとなっているのは、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城。
そして、マヤジャングルへと向かう、レベル10のゲート手前にある橋のモデルになっているのは、アメリカのカリフォルニアに架かっているビクスビー橋。Watopiaのこの箇所にぴったりのサイズ感だったこともあって選ばれました。
確かに両方とも似ていますね(^^)
いずれもMorishimaさんがデザインしたものですが、彼がお気に入りなのは別のもの。それが意外にも”山羊”。Epic KOMのゲート横に佇んでいて、KOMリーダージャージにもプリントされている動物です。ヒルクライムの労をねぎらうように激しく動いていますが、3,040ポリゴンと、毎秒30フレームのアニメーションが費やされており、この一匹だけのために7日の製作期間を要したそう。すごいですねぇ(^^;
もう一つ、ZWIFT内のすべてのものは、「いくつかのディテールレベル(”詳細度”と言えば分かりやすいでしょうか)」から成るそうです。例えば、アバターなら6つのレベルが設定されています。つまり、どういうことかと言えば、アバターをアップにすると、より細かな部分まで見えるディテールレベルとなりますが、カメラを引いて距離が離れると、気づかない内により荒い画質のディテールレベルに切り替わっています。これは、グラフィックのメモリ節約し、動作を軽くするためです。
第三話「マヤジャングル」の秘密@Road to Ruins
マヤジャングルへと続く、レベル10にならないと入れないゲートを抜けると、左右に無数の青い花が咲いている野原を走り抜けていきます。あの花は「ブルーベル」(ZWIFT内のブルーベルは上向きに花を咲かせていますが、実際のブルーベルは釣り下がるように花をつけます)。一つ一つのブルーベルはコピーではなく、”サイズ”、”色”、”向き”が微妙に違っているため、数が数なだけに相当大変だったみたいです(^^;
その先へと進んでいくと、マヤジャングルの入り口、分岐の所では「トーテム」に出会います。よく見ないと気づきませんが、あのトーテムは120度ごとに3つの異なる顔を持っています。あの顔は、何かをモデルにしているのではなく、3Dアーティストのミゲル・リベロ氏が、自らの想像力を働かせて作成。マヤジャングルの雰囲気を表現しているシンボル的トーテムは、ミゲル氏のお気に入りだそうです。
そして、マヤジャングル最大の特徴と言えば、至る所に見られる「遺跡」です。数は多いですが、実際、あの遺跡を作るのは比較的楽だそうです(笑) というのも、普通の建造物と違い、遺跡は”壊れている”建造物のために正確さが重要ではないから。いくつかの建造物が20,000ポリゴン以上必要であるのに対し、その1/10以下の1,800ポリゴンで出来ています(Epic KOMの山羊は3,040ポリゴンでしたね)。
ゲーム的に、ポリゴン数が少ないことは”低コスト”。高いディテールを求めつつも、その反面で”コスト”とのバランスを考えないといけません(グラフィックメモリを食い、動作が重たくなったりする問題が生じると考えられます)。マヤジャングルの鬱蒼とした密林も、この考え方で作られています。リアリティを出しつつ”低コスト”に抑えるため、9人のデザインチームが、複雑で労力を要する技術的トリックを取り入れることで、密林のトータルポリゴン数を抑えることを実現しています。
最後に、夜のマヤジャングルに”フワフワ”飛んでいる「蛍」について。あれは、ZWIFTの創設者の一人であり、チーフゲームデザイナーのジョン・メイフィールドが生み出したものですが、どのような仕組みで発光させているのかは、ジョン氏を除く誰もが謎に思っているだそう。
第四話 世界最大の飛行艇のヒストリ@Tour of Fire and Ice
2017年1月、Watopiaに登場した火山ルート「ボルケーノ」。製作を担当した3Dアーティストリーダーであるトニー・イルエガス氏は「どのように熱く見せるのか?と考えることが一番楽しかった」と言います。トニー氏率いる8人のチームは、100℉(≒38℃)を超える砂漠地帯のアスファルトの上に立っている際、地面から発せられる熱によって視界が歪むのと同じ現象を「ボルケーノ」にも取り入れました。火山内を走っていると、熱によって景色が”ユラユラ”しているのに気づくと思います。この視覚的効果に加え、融解した銅のような、ドロッドロに溶けた黄色いマグマも合わさり、本当に熱そうに見えますね!
そこからAlpe du Zwiftへの道中、”巨大な飛行艇”の横を通り抜けます。「Road to Sky」のルートを選択すると、スタート地点のちょうど真横の海に浮かんでいます。あれはZWIFT本社のあるカリフォルニア州ロングビーチにおいて、70年以上前に滑水テストが行われた「H-4」飛行艇。大富豪ハワード・ヒューズによって製作されました。サイズは全幅98m、全長67m、全高24m。有名なジャンボジェット「ボーイング747」が全幅68m、全長75m、全高19mですから、真横に大きく広げた翼は、ジャンボジェット機を遥かに上回る大きさです。
何より驚くべきは、その超巨大でありながら、機体が”木造”で作られていること。これは、「H-4」が開発されたのが第二次世界大戦真っただ中であり、軍から金属制限が出されたからです。材料として「スプルース」という木材が使われているため、「H-4」は通称「スプルース・グース(スプルース製のガチョウ)」と呼ばれました。
紆余曲折を得て完成した1947年、ロングビーチで「スプルース・グース」の初飛行テストを実施。そのテストは滑水のみの予定でしたが、ヒューズ氏のサプライズで、高度25メートル、距離1マイル(≒1.61km)、そして1分にも満たない時間でしたが、見事に離水したそうです。その後、強度的な問題により実用化はされず、今現在は、オレゴン州のエバーグリーン航空博物館に展示されています。こういった歴史があったを知ると、あの飛行艇を見た際に感慨深さを覚えますよね(^^)
「Tour of Fire and Ice」の最終地点にしてメインを張るのは、実測12.3km、平均8.4%、獲得1036mの超級山岳である”Alpe du Zwift”。標高が上がるにつれて、現実世界を再現したような植生の垂直分布が見られます。「高山村」「石塔(物見櫓のような役割)」「大きな衛星アンテナ」「飛行船の離着陸場」なんかも目に入ります。Alpe du Zwift製作にあたり、昼と夜で景色や建物が劇的に変化する新技術を導入。中でもデザインチームのお気に入りなのが、夜の山頂付近。夜空に現れる色鮮やかなオーロラ、大空へと照射される天文台のレーザー、その近くに建てられている明かりを灯した複合研究所。
あのレーザーなのですが、天体観測する際に照射される「レーザーガイド星」と呼ばれるもの。大気の揺らぎを計測し、空間分解能を向上させる(よりくっきりと天体を観測する)ために用いるのだそうです。
第五話 Watopiaに散りばめられたカリフォルニア追憶の風景@Figure8
Watopiaのスタート地点に程近い、高層ビルが林立するダウンタウンエリアは、ZWIFT本社のあるカリフォルニア州ロングビーチからインスピレーションを得ています。2015年4月にWatopiaが誕生した当時、現在のようなビル群は一切建っておらず、工事中の建物と大きなクレーン重機があっただけ。その後、フォームアップデートごとに徐々に開発が進み、現在の賑やかなリゾート地へと発展していきました。
同じコース「Hilly Route」を3年前と比較した走行動画。「へぇ~、そうだったんだ~」と感心しますね!
そんな開発の中で追加されたものの一つが、現在、イベントの待機場所となっている「広い桟橋」。こちらはサンタバーバラとサンタモニカの桟橋がモデルとなっています。サンタモニカの桟橋と見比べると、賑やかな雰囲気、観覧車なんかはよく似ています。
桟橋が登場した当初は、まだ「イベント」というシステムがありませんでした。桟橋は”遠くに見える景勝地”程度の位置付けで、あまりディテールにもこだわられていませんでした。ですが、「イベント」が導入されると、そのままという訳にはいきません。多くのライダーたちが長時間待っている場所が、殺風景で、つまらなくあってはいけません。ポリゴン数を増やし、景観、構造物、建物のディテールに力が入れられました。
更に、時として数千人のZwifterが集まるこの桟橋は、ZWIFTの中で最もグラフィックメモリを食うエリア。第二話でも話しましたが、ディテールとグラフィックメモリのバランスは、滑らかな動作を実現する上で重要です。ですので、この桟橋は常にそのバランスが微調整されて続けており、そういう意味で、プログラム上は”工事中”のような状態にあります。
さて、ダウンタウンエリアを抜け、水中トンネルへと入っていきます。その中間の辺りで「バイオドーム」(植物園に似た空間)を走りますが、そこで”木のトンネル”を抜けます。あの樹木は北アメリカに分布する世界最大の「セコイア」(余談ですが、このセコイアはジャービス島から移植されたものです。ジャービス島の森を懐かしんだユーザー達が「ワトピアにも森が欲しい!」と懇願した結果、バイオドームに”ミニジャービス島”を再現)。そして、カリフォルニア州カラベラス・ビッグツリーズ州立公園に存在した「パイオニアキャビン・ツリー」がモチーフになっています。残念ながら「パイオニア キャビン・ツリー」は無くなってしまいました。1年ちょっと前の2017年1月8日に、連日続いた吹雪によって倒壊してしまったそうです……
水中トンネルを抜け、再びダウンタウンエリアへと戻る途中、「ZWIFT KOM」スタートラインの真横に建てられている青い小屋。看板には「HANK’S OIL & GAS」という文字。ここは、カリフォルニアの古き良き時代に、各所でつくられたガソリンスタンドです。きっとアメリカの大人たちにとっては”懐かしい場所”なんでしょうね(^^)
「Hank’s Gas Station」は、第二話でも登場した日本人デザイナーMorishimaさんが作製。「比較的静かで辺鄙な所に、通常ならそこにあるはずのない小屋(ここでは「Hank’s Gas Station」の事)を作り、不気味な雰囲気を創り出すことが好きですね」と彼は話します。
屋根の上をよ~~く見てみると、ZWIFTを象徴する動物であるリスがZwifterたちを出迎えてくれています。
第六話 三連山「Three Sisters」の秘話@Three Sisters
「Zwift KOM」「Epic KOM」「Volcano KOM」と立て続けに登るコース「Three Sisters」。調べてみると、オーストラリアのブルーマウンテンにある、3つ並んだ奇岩がヒットしました。言い伝えによると「3姉妹が岩にされて戻れなくなった」のだそう。他の国、例えばカナダなんかにも「Three Sisters」と呼ばれている、3つ連なった有名な山があったりしますから、特定の由来は無いのかもしれません。
コースを走り始めてすぐ、上空を”飛行船”が飛んでいるのが目に入ります。その飛行船は初期グラフィック要素の一つで、Watopia初日からず~っと飛び続けています。このモデルは、ZWIFT本社の窓からよく見掛けるらしいグッドイヤーの飛行船。これまでの開発秘話を読んでいて思うのですが、WatopiaにはZWIFT本社の周囲からインスピレーションを得ているものが多いですね!
続いて「Epic KOM」。中盤以降、ロッジがたくさん建てられていますが、「スキーリゾートのような雰囲気を出したいと思いました。そこで、ロッジとリフトを作ることにしたのです」と3Dアーティストリーダーであるトニー・イルエガス氏は話します。”パウダースノー”と”澄み切った空気”。「Epic KOM」の美しい風景を目にすると、カリフォルニア人は「タホエ湖」や「マンモス湖」を連想し、ヨーロッパ人なら、アルプスを登っているような感覚を覚えるかもしれません。
そして、コース最後は「Volcano KOM」。「Epic KOM」とは”陰”と”陽”の関係にある、まるで正反対の特徴をもった山。今年2月にはナショナルチャンピオンシップが初開催されて、歴史が刻まれた峠でもあります。距離4.34km、平均勾配5%。トニー氏いわく「Volcano KOMを厳しい登りにしたくはありませんでした」と。つまり、距離が短く、勾配も比較的一定であるのは意図されたものなのです。また「登り終えた後は同じ道を下り、その途中、ずっと下のほうでVolcano Circuitを走るライダーが見えるように設計するのが”クール”だと考えました」とも言います。さらなる工夫として、グラグラする橋を追加。この今にも壊れてしまいそうな橋は、危険な上を走る”恐怖感”を演出しています。
第七話 壮大な景色の裏にあるグラフィック的技巧の数々@Mountain8
芝生だった景色は「Epic KOM」の急な九十九折りを登るにつれて、雪の積もった山岳地帯へと変化していきます。そんな中でも「スキーリフト」は、リアルな山を再現するために持ち込まれたグラフィック要素。ただ、スキーリフトを設置するだけでは物足りません。常に稼働させ続ける必要があります。そのために重要な役割を担っているのが「ケーブル」です。ケーブルはスキーリフトに無くてはならない構造物という役割もありますが、それ以上に「リフトという”物”が、プログラミング上従っていくべき”道”を示している」という働きが大きいそうです。
「Epic KOM」を登り切ると、その先にあるのが「ラジオタワー」の激坂。「なぜそんな激坂をつくったのかって?山頂へと続くチャレンジングな坂をつくり、登り切った際の疲労感と、周囲を一望できる眺めをライダーに与えることによって、強烈な達成感を味わってもらいたかったのさ!そこはAlpe du Zwiftのベストビュースポットでもあるから、しっかり堪能していってもらいたいね!」と開発陣は言います。
さて、「Epic KOM」を下り、ダウンタウンのフィニッシュ地点3kmほど手前まで走ると「イタリア村」に辿り着きます。雰囲気ある街並みや石畳、それにヘンテコなリスの噴水(笑)なんかが見られます。
そして、入口付近にはWatopia最大の滝。この滝は芸術的に美しいグラフィックですが、どのように作られたか疑問に感じたことはありませんか?本来、この滝は木などと同じような静的なグラフィック・ポリゴンです。ですが、その表面に下へとスクロールするテクスチャー(物体の表面や質感を表現するための地紋やパターン、または画像)を貼り付けることで、滝の流れの印象を創り出しています。イメージとしては、透明な板の上に、滝の模様をした紙を滑らしている感じでしょうか。Volcanoのユラユラと漂う蒸気、ドロドロに流れている溶岩も同じ原理で動いています。この”動きトリック”はWatopiaの様々な場所で用いられており、それらがWatopiaに活気を与えてくれているのです。
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