松木です。
第三者機関Virginia Tech(バージニアテック)が、
「自転車用ヘルメットの安全性」に特化したテストを実施しました。
Virginia Techは、バージニア工科大学の正式な略称で、
バージニア工科大学構内に「ヘルメットラボ」が存在します。
このラボにおいて、2011年より
アメフト、ホッケー、サッカー(練習用)の
ヘルメットの安全テストが行われてきたのです。
ですが、先日
「安全性の高いヘルメット選びに役立つデータを、サイクリストに提供すること。
メーカーのほうも、怪我のリスクを減らすヘルメットづくりに取り組んで欲しい。」
その目的で、30種類もの自転車ヘルメットを対象とした落下テストを実施。
この規模のものはおそらく世界初で、
海外ではニュースに取り上げられるほど注目を集めたようです。
ちなみに、30種類の中には、
ボントレガー『Ballista MIPS』や
スペシャライズド『S-Works Evade Ⅱ』など、
気になるモデルもいくつか含まれています。
「機材」「速さ」とは関係ないテストですが、
”実験物”としてはとても面白いですし、
ヘルメットの「安全」に関する見解は深まると思いますよ(^^)
※ある方が高速ダウンヒル中に落車して頚髄損傷された事故の話↓
この記事を作成中、お問い合わせフォームより
「上の記事を紹介してもらいたい」とのご相談メールをいただきました。
友人が頚髄損傷という大事故に遭い、
「自転車を趣味にしている方の一人一人に、交通事故に対する危機感を持ってもらいたい」
との想いから、この記事を書かれたそうです。
この記事を読まれる方の
「安全なヘルメットの必要性を再認識してもらうきっかけ」
になればいいなと思います。
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テスト方法
ただ闇雲にヘルメットに衝撃を与えるのではなく、
実際に多い事故状況を調査し、
なるべくそれを模した実験装置を組み立てています。
そして、金属の斜面にヘルメットを落下させるのですが、
動画で見てもらうと、イメージしやすいでしょう。
以下、具体的な実験方法の説明です。
最初に、現実の落車データを元にして
上の①~⑥のヘルメットポジションが選ばれました。
①~⑥それぞれのヒットポイントは、
結果に支障をきたさないよう「重複ダメージ」を避けるために
120mm以上離れるように配慮されています。
まずは、1つ目のヘルメットを
①⇒②⇒③⇒④⇒⑤⇒⑥の順番で落下させます。
その後、ヘルメットにはダメージが蓄積されていますから、
2つ目の新品へと入れ替え、同様の手順で再び6回落下。
これを4つ目まで行うため、一種類のヘルメットにつき
6ポジション×4つ=計24回もの落下を繰り返すことになります。
ちなみに、Ⓗ、Ⓛというのは、
Ⓗ=速い衝突速度(7.3m/s)
Ⓛ=遅い衝突速度(4.8m/s)
この2種類の衝撃速度も、現実の落車データを元に決められました。
ヘッドフォームには、
3つの「直線加速度計センサー」、1つの「3軸角速度センサー」が搭載されており、
加速度の”ピーク”や”変化”を測定できるようになっています。
その測定した値を、複雑な計算式に代入することで、脳震盪のリスクを数値化。
その数字に応じて★を付けて評価する、といった流れになります。
実験結果を見てみる前に、
「MIPS」と「Certifications: CPSC」の部分について
簡単に説明しておきましょう。
まず、「MIPS(ミップス)」というのは、
Multi Directional Impact Protection Systemの略で、
日本語にすると「多方向衝撃保護システム」。
ヘルメット内側に取り付けた保護レイヤー(図の黄色のパーツ)が、
地面に頭をぶつけた際にスライドすることにより、脳へのダメージを軽減させます。
MIPSの効果を示す動画↓
続いて「Certification: CPSC」に関してですが、
- Certification=認証
- CPSC=Consumer Product Safety Commission=米国消費者製品安全委員会
つまり「米国消費者製品安全委員会が認証したヘルメット」を意味します。
CPSCは、アメリカでヘルメットを販売するために
必ずクリアしないといけない安全基準ですが、
認証を受けるためのハードルは、決して高くありません。
CPSCのテストでは、本実験と似た装置を用いるのですが、
「装置」「実験手順」ともにシンプルです。
「ヘルメットに一定以上の強度が備わっているか調べるだけ」といった印象で、
CPSCだけでは、脳へのダメージを最小化できるかどうかまでは判断できないでしょう。
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テスト結果
★5つ:満点(4種類)
唯一の10点台で、2位と1.4点もの差を付けて
ボントレガー『Ballista MIPS』がNo.1。
他の3種類に目を向けてみると、
「メーカー」「価格」こそバラバラですが、
どれも「MIPS搭載」「ロード用」という共通点が見られますね(^^)
★4つ:非常に良い(12種類)
脳に深刻なダメージを与えないためには、
★4つ以上は欲しいところです。
12種類中5種類がMIPS搭載モデル。
やはりMIPS強いですね!
それから、MIPSが付いていなくても、
スペシャ『Prevail Ⅱ』『Evade Ⅱ』など
各社ハイエンドモデルも、大体がここに含まれています。
これは、高級モデルのほうが、
強度はしっかりとテストされていたりするのでしょうか?
ちなみに、『Prevail Ⅱ』のMサイズ実測重量が210g、
『Evade Ⅱ』のS/Mサイズの実測重量は247g。
『Prevail Ⅱ』のほうが40g弱軽量なものの、
安全スコアは『Prevail Ⅱ』14.8、『Evade Ⅱ』18.5となっており、
『Prevail Ⅱ』のほうが3.7点良い結果が出ています。
このことから、
「ヘルメット重量」と「安全性」の間には、あまり相関関係が無い
と言えるかと思います。
★3つ:良い(12種類)
MIPS搭載モデルが一つだけあります。
ただ、それも19.0点と、限りなく★4つ(19点未満)に近い点数です。
また、本実験の対象となった30種類の内、
8種類が「街乗り用(Urban)」なのですが、
その内の6種類もが★3つ。
どうやら落車時の衝撃をやわらげるには、
”ツルッ”とした「街乗り用」ヘルメットよりも
ベンチレーションと凸凹がある「ロード用」のほうが有効な模様。
★2つ:十分(2種類)
以上の結果をまとめます。
- 脳へのダメージを軽減するには、MIPSが非常に効果的である
(MIPS搭載モデルは★5つ:4種類、★4つ:5種類、★3つ:1種類) - 「価格」と「安全性」は比例しないが、$150以上の物は★4つ以上だった
- 「重ければ安全、軽ければ弱い」という訳ではない
- 「街乗り用」は8種類中7種類が★3つ以下で、「ロード用」のほうが安全な傾向にある
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気になりますのが、今回の結果が脳への振動の加わり方を評価したこと。
軸索損傷には重要な点ではありますが
メールで記事を依頼された方の「頸椎損傷」については不十分なのではないかと
日頃思っております。
本当は、カートで使われているネックサポートや、二輪車でも出始めたネックブレースなど、首とヘルメットの間の動きを制限するものが作られないと
頸椎損傷は防げないのではないかと思っています。
ただ、自転車でフルフェイスのメットは(周りが見えないのでかえって危ない?)使いえないとも思っていますので、どなたか知恵を出していただけないものかと
頭の悪い私は思っております。
気になりましたので、コメントさせていただきました。
はじめまして(^^)
tkosgnさんのおっしゃられる通りだと思いました。
ヘルメットは頭の直接的なダメージを防ぐものなので、
頸椎損傷までカバーできるのかと言えば、せいぜい「軽減」止まりかもしれません。
だからと言って、ロードバイクで首までサポートできるアイテムがあるかと言えば、
「ホーブディング 2.0」など思い浮かびましたが、実用的とまでは言いづらいですね……