松木です。
2015年全日本ロードを題材としたノンフィクション『アタック』を読みました。
「面白い」
この一言に尽きます。
良い作品に出会うと、余韻に浸りたくなりますが、
この本を読み終えた際もそうでした。
この作品について話した記事↓
「君の名は。」の前日発売『アタック』。作家佐藤喬により描かれるロードレース感動の人間ドラマ。
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目次
p2 主な登場人物
P3 全日本選手権2015ロードレースコースマップ
P5~ プロローグ
P15~ 【第一章】那須ブラーゼン
P43~ 【第二章】少年たち
P73~ 【第三章】宇都宮ブリッツェン
P93~ 【第四章】2015年全日本選手権
P183~ エピローグ
P189 主な登場人物たちの成績
p190 あとがき ~未完のレース~
『アタック』を読んだ感想
『アタック』が面白い理由。
それは、ノンフィクションでありながら、
小説のような「丁寧な背景描写」と「繊細な心理描写」が秀逸だからです。
ロードレースは「エースを勝たせるためにアシストが働く」というシンプルな図式ですが、
エースとしての”重責”
チーム環境に順応できない”ストレス”
他のメンバーへの”嫉妬”や”不満”
思うように走れない”歯がゆさ”
エースとして走りたい欲求を押し殺しなければならない”葛藤”
予期せぬ落車の怪我による”挫折”
プロ選手として生活できるのかという”将来への不安”
不調による”焦り”
チーム内での”人間関係の悩み”
「心」という部分に目を向けると、かなり複雑な競技です。
その点、『アタック』は選手たちの感情の深い部分までよく描かれており、
読者はいつの間にか登場人物に感情移入してしまいますし、
さらに作家ならではの表現技法によって、感情を大きく揺さぶられ続けます。
レースは93ページから始まりますが、それまでの本の半分近くは、
選手の「過去」「性格」「行動」「チーム内での立場」などを明確にした上で、
「読者を感情移入させるため」に割いています。
いきなりレースが始まり、激しく争ったとしても何も面白くはありません。
スラムダンクの「山王戦」は、
そこに至るまでの湘北5人のストーリーに”共感”できているからこそ面白いのであって、
いきなり山王と勝負したとしても、感情はそれほど揺さぶられないでしょう。
レース描写も完璧でした。
動画を見てもらうと分かりますが、
「アタック合戦」「逃げの形成」「大集団の追走」と
レース展開は、かなり目まぐるしく変化していきます。
その上、
「序盤の強力な逃げが吸収される原因となった18人バラバラの思い」
「不調であるはずの佐野選手のアタックと、その後のとまどい」
「意思疎通がうまくいっていない宇都宮ブリッツェンの3選手」
レースの裏側には、動画からは読み取れない
選手・チームの思惑も交錯しています。
それら複雑な「レース展開」「選手心理」が、
臨場感たっぷりに細かく描かれていましたし、
綺麗につながりのあるストーリーとして頭へとスッと入っていきます。
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いつまでも手元に残しておきたくなる本
通常の小説であれば、作り話で済みます。
ですが、『アタック』はノンフィクションであって、
実際に選手たちに会い、地道な取材を続ける必要があります。
それに、取材で得た情報もすべてが使えるわけではなく、
必要なものだけを取捨選別し、
面白くなるように構成し直さなければなりません。
本一冊が出来上がるまで、どれほど大変か‥‥
その膨大な作業量は、想像を遥かに上回るものだと思います。
『アタック』の舞台は2年前のレースですが、
納得できるものに仕上げるまでに
それだけ時間がかかったのかもしれませんね。
ロードバイクに乗るのであれば、一度は手に取ってもらいたい本です。
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