「ここまでか‥‥」
緩やかな斜面が激坂に感じるほどに、
脚、首、腰、腕、あらゆる部分が悲鳴を上げていた。
坂を上がっているのに身体は冷たく、
全身の力がスーッと抜けていくのを感じた。
前回の話↓
『【戦略編】獲得標高4,675mの「七葛」。七方から葛城山を攻めるクレイジーチャレンジ。』
スポンサーリンク
『七葛』挑戦前
朝、南海「岸和田駅」に到着。
準備を整え、コインロッカーに荷物を預けた。
持ち物は、写真の補給食(ラップに包んでいるのはおにぎり)とスマホ、
パンク修理道具に携帯工具、3,000円、それからペン一本のみ。
ずっと上り続けるわけだから、最小限の荷物だけにした。
今回の挑戦に際して「補給」には相当気を遣っていた。
失敗するとすれば、
「体力」「ハンガーノック」「暑さ」「怪我」「機材トラブル」などが考えられたが、
この内、最も危ないのは「ハンガーノック」だと思っていた。
3000m越えの経験ならあったが、
5000m近い獲得標高は完全に未知だった。
5時間以上坂道を走る予定だったから、
膨大なエネルギーが消費されるのは間違いないが、
走りながら摂取するにも限界があり、
意識して摂り続けたとしても、エネルギー切れになるのは目に見えていた。
ハンガーノックに陥ったことは何度かあるが、
あれは気合いで何とかなるものじゃない。
単に動けなくなって終わる。
急いでエネルギーを摂ってもあまり回復しない。
そこで、前日から詰め込めるだけ詰め込めておくことにした。
朝食:カレー大盛り、唐揚げ×5
昼食:ミートスパゲッティ2人前、野菜生活ジュース
おやつ:フルーツグラノーラ+ヨーグルト+ハチミツ
夕食:ハヤシライス、食パン1斤+ハチミツ、午後の紅茶、コーラ
もちろん今日の朝も、
大盛りご飯+納豆+卵と、フルーツグラノーラ+ヨーグルト+ハチミツ
を食べてから家を出た。
7時ちょうどに「岸和田駅」を出発し、最初の上り口へと向かう。
日差しの出ていない良い天候だ。
気温も低め(貝塚:最高26度、最低19度)で
「暑さにやられる」といった不安はなさそうだった。
スポンサーリンク
『七葛』挑戦前編
最初のコース「塔原(とのはら)」に到着。
近くがバス停になっている。
トイレを済ませ、自販機の「力水」を飲んで気合を入れた後、
facebookで宣告してから、7時51分スタートした。
「塔原」は8~12%の坂が終盤までずっと続く。
だが、7つあるコースの中では、
これでも比較的穏やかなほうで、ウォーミングアップである。
ペースも抑えめだった。
しかしながら、開始間もなく”あること”に気づいた。
「ギアが足りない‥‥」
長期戦になるため、
クルクル回して脚への負担をかけないように上りたいところだが、
インナー×ローでも、どうしても踏みがちな感じになる。
残念ながら、手持ちのスプロケに25Tしかなく、28Tが無かったのだ。
残り6つのコースの内、
ここ「塔原」よりもキツいコースは4つもある。
先が思いやられた。
だが、無いものは無いのだから仕方ない。
今日はこれで乗り切る他ないし、すぐに気持ちを切り替えた。
重いギアを踏んでいるためだろうか?
早くも腰が痛くなってきた。
シッティングが少し辛い。
あまりダンシングを多用するほうではないのだが、
急斜面ではダンシングを織り交ぜて腰を休ませ、
勾配が緩くなってきたらサドルから腰を上げ、
猫のように腰を伸ばしてストレッチしながら進んでいった。
「塔原」 記録37分10秒
一応、各コースの予想タイムを考えていたのが、それよりも5分も遅い。
甘く見てしまっていたようだ。
山頂に着いても長居はしない。
これから後、6回も来る場所である。
トイレだけ済ませ、さっさと次のコースへと下りていく。
滑稽なことだと思うかもしれないが、
『七葛』は「下ってから同じところを上る」を繰り返す。
つまり、下っている最中が試走でもあり、
下りながらも上り返しをイメージしている。
「この坂を上るのか‥‥」
次は「中尾(なかお)」。
7コース中、最高難度となるコースである。
関西では有名な暗峠(くらがり)に匹敵するような坂道が目の前にあった。
辛そうというよりは、足を着かずに上れるのかが不安になった。
8時57分登頂開始。
序盤の勾配は緩やかながら、
「ミカン畑」が見えた辺りから
アスファルトだった路面がコンクリートに変わったと同時に
激坂が一気に牙を剥いた。
予想通り、いや予想以上の勾配だ!
シッティングができない。
前輪が浮いてしまう。
ダンシングし続けながら上らなければならない。
体重をかけてペダルを踏んで前へと進もうとするが、
後ろから強く引っ張られるかのように、すぐに減速し、
もう片方の足でペダルを踏み始める前に、一瞬速度が”0”になる。
上り続けていると言えるような進み方ではなく、
まるで”シャクトリムシ”のような動きになってしまっている。
脚を休めようもんなら、即座に立ゴケするだろう。
そんな道が、ずっと先のほうまで続いていて、心が萎えてくる。
一体どれぐらいの時間、シャクトリムシ走法を続けていただろう。
ずっと続いているミカンの木が、なぜか憎々しく見えてきた。
しばらく我慢を続け、
ようやくアスファルトに戻って腰を下ろすことができるようになった。
その先にも時々コンクリートの激坂が待ち受けていたものの、
長さ、勾配とも最初のものほどではなくて大丈夫そうだ。
ただ、よく痛めている左膝が、踏み込むごとに少しズキッとする。
ここで悪化させてはリタイアもありえる。
グイグイ踏むのではなく、
なるべく優しく踏むようなイメージで痛みを和らげた。
「中尾」 記録49分15秒
正直、上り切れてホッとした。
ただ、やはり予定時間よりも4分遅い。
おそらく他のコースも同じように、予定よりも遅れてしまうだろうが、
タイムよりも7コースを攻略することのほうが大事だ。
焦らず、ペース配分に気を付けて上ろうと思った。
そして、また次なるコースへと下って行った。
次は「蕎原(そぶら)」だ。
このコースも厳しいのは分かっていたが、
下りながらゾッとしてしまった。
勾配はもちろんだが、何より路面の荒れ方がとにかく酷かった。
しかも、常に空が見えていた「中尾」と違って
コースが鬱蒼とした森の中になっていて、
日差しや風が地面に届かず、路面が湿っていた。
前日の雨のせいだ。
勾配の感じからしてシッティングは不可能で、ダンシングは必須。
しかしながら、荒れた上に湿った路面とあっては
前荷重になるダンシングをすると後輪が非常に滑りやすく、
一筋縄ではいかない坂道なのは容易に想像できた。
「蕎原」スタート地点へと下っている途中、
「そぶら山荘」に立ち寄った。
あんパンを買っておく。
補給食は多いに越したことはない。
そして、ウサギに一時の癒しをもらった。
10時27分登頂開始。
やはり、常に身体に振動が伝わってきて嫌な感じだ。
走りにくい。
走りに集中したくても、路面に気を配って
ギャップや滑りそうな場所を避けていかなければならない。
体力もそうだが、神経も磨り減ってしまう。
しかも、この道が長いのだ!
「中尾」は、急勾配が継続していたのは序盤1/3ぐらいだったが、
「蕎原」は、半分以上が上記のような道だった気がする。
「中尾」で強いダメージが残っていたから、
長い激坂はボディブローのようにジワジワと効いた。
しかしながら、何の秘策もない。
ただ耐えて上り続けるしかない。
終わらない坂は無いのだから。
「蕎原」 記録41分50秒
これが予定(46分)よりも早くて意外だった。
特段ペースを上げたつもりもなかった。
身体の動きが良くなってきたのか?
さて、「塔原」「中尾」「蕎原」の3つのコースを攻略した。
残り4つあるものの、
最難関と位置付けていた「中尾」「蕎原」を上り切ったのだから、
ペースさえ冷静にコントロールできれば、他のコースは恐るるに足らないはずだ。
この時、そんな風に思い、
『七葛』を半ば成功させたつもりになっていたのは間違いない。
だが、これから先
上の考えは、ジョージア「マックスコーヒー」のように
甘過ぎるものだったと思い知ることになる。
”塔原” ”中尾” ”蕎原”
この3匹の悪魔によって
自分でも気づかないほどに身体は蝕ばまれていたのである。
本当の闘いはこれからだったのだ‥‥
後編へと続く。
スポンサーリンク