松木です。
前回からの続き。今回は【スポーク編】です。
DT Swissの設計思想の内、スポークに関するもの
「隠れ空気抵抗”Rotaional Drag”とその各種データ」
「新開発Aerolite IIとAero Comp IIのポテンシャル」
「DT Swissが考える理想のスポーク形状」
などを見ていきましょう(^^)
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目次
スポークは回転空気抵抗を受ける
回転空気抵抗とは?
一般的に「空気抵抗」というのは、
「走行時に進行方向から受ける風圧によって後方へと押し戻される力」
として認識していると思います。
ですが実は、
あまり語られる機会のないもう一種類の「空気抵抗」が存在しています。
それはホイールの「回転空気抵抗」
「回転方向から受ける風圧によって、逆回転方向①へ押し戻される力」と説明でき、
回転しているタイヤ、リム、スポーク、ニップルの内、大半はスポークが受けます。
これはホイールにのみ働く”特殊な空気抵抗”と言えるでしょう。
DT Swissは、前者の一般的な空気抵抗を「Translational Drag」、
後者の回転空気抵抗を「Rotational Drag」と区別し、その両方を研究対象としています。
ちなみに、先頭の写真が「Rotational Drag」を測定するための器具。
風洞施設は「Translational Drag」を測定するための装置であって、
「Rotational Drag」までは測定できませんから、わざわざ作ったのだそう。
ベアリングの摩擦は、ベアリングをハブからテストリグに再配置することで測定から除外されます(写真の②③)。 ホイールを回転させた後(時速60km以上まで可)、光照射④が光バリア①の隙間をどれだけ通過するかで、ホイールの回転速度の低下が測定されます。 回転エネルギーは、回転速度の低下とホイールの慣性モーメントによって、可能な限り高い測定精度で計算することができ、それを元に「Rotational Drag」を算出します。
フィゾーの光速度測定実験の原理に似た、面白い仕組みの実験器具ですね(^^)
どれぐらいの回転空気抵抗を受けるか?
「Translational Drag」はサイクリスト75%、機材25%で、
機材の内、その約1/3にあたる8%を前輪が占めています。
そして、右図が前輪(厳密には測定器具に取り付けた車輪)のDRAGの内訳。
「Rotational Drag」がどれほど影響力があるものなのか、何となくイメージできるでしょう。
こちらは「Rotational Drag」の各種具体値。
リムハイトの違いで「Rotational Drag」が異なる(48㎜が4.4w、80㎜が4.13w)のは、
ディープであるほど「Rotational Drag」を受けるスポーク部分が短くなるからです。
あと、エアロスポークの影響もそこそこ大きい(-1.5w)ですね、、、
これを見るに、ディスクホイールだと2w台まで下げられそうな気がしますし、
逆に「ローハイト&4㎜カーボンスポーク」のR-Sysなんかは10wを超えてそう……
また、スポークが「Rotational Drag」の最重要パーツではあるものの、
タイヤの太さ(0.3w)、ニップルの内蔵(0.5w)も多少影響を及ぼします。
-0.5wにも関わらず、大手ハイエンドホイールの8~9割が「外装ニップル」のままなのは、
「-0.5wぽっちでは振れ取りのメンテナンス性低下に見合わん!」と判断してのことか…
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新型スポーク『Aerolite II』『Aero Comp II』
”II”になってどう進化しているのか?
2018年の旧DT SWISS ARC 1100 DICUTは、
後輪ドライブ側『DT Aero Comp』(上図)、それ以外『DT Aerolite』(下図)
(参考重量:264㎜/64本で『Aero Comp』380g、『Aerolite』278g)
2020年の新DT SWISS ARC 1100 DICUTが、
後輪ドライブ側『DT Aero Comp II』、それ以外『DT Aerolite II』
”II”になってどう変わっているかと言えば、
- よりエアロ効果の高い形状に改良。Aero Comp IIは不明だが、
Aerolite IIは35%幅広く、23%薄くなっている
⇒Aerolite IIの幅は2.3㎜×1.35≒3.1㎜、厚さが0.9㎜×0.77≒0.7㎜ - より入念な鍛造を施すことで「(引張)強度」の高い素材となっている
「ここまで薄くしてしまうと強度、横剛性は大丈夫なの?」って心配になりますけど、
その弊害は、”追加の鍛造”によって素材自体の強度を上げる事でカバーしている模様。
Aero Comp IIの方の寸法は明らかにされていません。
ですが、HP上にある両スポークのCG画像が、
サイズを正確に再現していると仮定するならば、
上図のように「幅3.6㎜、厚さ0.9㎜」となります。
Aerolite IIに比べて太く、「横剛性」が高い特徴を持っていることから、
最も「強度」「剛性」を必要とする後輪ドライブ側に使用されています。
実際のAerolite II(ディスク側)とAero Comp II(フリー側)
根元部分は直径2㎜の丸スポークであることを考えると、
たしかに幅は3.1㎜、3.6㎜ありそうな感じがしなくもないか?
それからAero Comp IIの方が厚い事もなんとなく分かりますね。
空力データ『Aerolite II』VS『Aero Comp』
こちらは、45km/h回転時、新型ARC 1100と1400の
「Translational Drag」「Rotational Drag」の差を表しているグラフです。
両モデルのDRAGに影響する違いは、
スポークのみ(1100はAerolite II×24本、1400がAero Comp×24本)
つまり「前輪をAero Comp×24本からAerolite II×24本に組み換えた場合、
どれぐらいTranslational Drag、Rotational Dragは良くなるか」という風に見てOK。
- 50mmハイト:₋2.9w(Translational Drag 1.1w+Rotational Drag 1.8w)
- 62mmハイト:₋2.3w(Translational Drag 0.9w+Rotational Drag 1.4w)
- 80mmハイト:₋1.5w(Translational Drag 0.8w+Rotational Drag 0.7w)
幅2.3㎜、厚さ0.9㎜のAero Compに対してこのアドバンテージとは、、、
Aerolite IIは相当にDragの小さいスポークなのでしょう!!
DT Swissが考える理想のスポーク
DT Swissが特許を申請しているスポーク。
回転速度が速いリム側半分が流線形状(空力重視)、
回転速度が遅いハブ側半分が楕円形状(強度・剛性重視と思われる)
細いスポークを流線形状に加工するのは簡単じゃないはずですし、
楕円形状への移行部分(図52の箇所)の処理もかなり複雑……
インパクト大ですが、恐ろしく手間がかかりそうなスポークですね(^^;
(小話:”T”ヘッドのおかげで、スポークは空力学的に最適な向きで固定される)
【スポーク編】は以上。
次回はいよいよ核心に迫る【リム編】へと移りたいと思います!
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