前回までの話↓
『【戦略編】獲得標高4,675mの「七葛」。七方から葛城山を攻めるクレイジーチャレンジ。』
『【攻略前編】獲得標高4,675mの『七葛』。七方から葛城山を攻めるクレイジーチャレンジ。』
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『七葛』挑戦後編
11時34分、第四のコース「牛滝(うしたき)」登頂開始。
初っ端からキツいのが特徴で、
竹林に挟まれた14%の激坂が500mほど続く。
そこを越えると、森の中の狭い道を走っていく。
最初に上った「塔原」に似ているが、
途中、コンクリート区間が何度も現れて緩急が多い。
ペースがつかみにくかった。
中盤を過ぎたあたりだっただろうか。
今までとは違う疲れも感じ始める。
苦しさを感じるほどに息が上がってきたし、
脚の「凝り」のような感覚だったのが、
如実な「疲労」へと変化してきていた。
急勾配でしか使ってこなかったダンシングをする機会も増えてきて、
ぺダリングパワーが少しずつ落ちているのも分かった。
3つ目の「蕎原」が思いのほか速く走れたこともあって、
(後で”40分”というメモを”46分”と勘違いしていたと気づく)
タイムを意識していた部分もあっただろう。
「おっと‥‥、まずいまずい。」
まだ『七葛』全体の半分ほどしか上り終えていない。
ここで脚を使い切っていては先はない。
すぐに意識してペースを落として、頂上を目指した。
「牛滝」 記録35分30秒
次の「犬鳴(いぬなき)」へと下っている途中、
初めて「ハイランドパーク粉河(こかわ)」に入った。
曇り空で、気温は20度前後。
暑くはないもののボトルは空になっていて、水分を足しておく。
「そぶら山荘」で買っておいた”あんパン”も食べた。
スタート前から、次の「犬鳴」は
『七葛』攻略の大きな鍵を握ると考えていた。
「牛滝」の前半を少しオーバーペースに走ってしまったせいで、
脚の疲労感が強い。
それに水分を大量に摂っているわけでもないのに
朝からずっとトイレが近く、
各コースを上るごとに、身体からエネルギーと水分が
どんどんと抜けているのを感じていた。
12時45分、「犬鳴」登頂開始。
序盤は比較的緩やかだ。
爽やかな森の中を気持ちよく走ることができる。
それが、薄気味悪いトンネルを越えると、坂道が一変する。
これまで幾度となく上ってきた激坂だが、
ここでも1.5kmのコンクリート区間が立ちはだかる。
”犬鳴”
鳴(泣)きたくなるのは、上っている人のほうだ!
ここを過ぎても、
山頂まで緩急のある厳しい坂道は続いた。
もし、この「犬鳴」で大きく消耗してしまったら、
残り2コースの1300m以上を上り切れる自信がない。
さすがに亀みたいにゆっくり走ることは避けたいが、
自分の体の状態を正確に把握し、
それに見合うようにペースを抑えて走った。
残りの道のりを無視した走り方は、
『七葛』攻略を遠ざけてしまうだけだ。
「この走り方で正しいか」
頭は常にフル回転で物事を考えていた。
「犬鳴」 記録55分40秒
かなり辛いが、まだ続く。
カフェイン入りのジェルをガッと飲み、気合いを入れ直す。
6つ目の「粉河」入り口近くにある小さな店「堂田商店」。
とにかくエネルギー戦略には余念がなく、
ここも事前にリサーチ済みだった。
中には賞味期限の長いお菓子が中心に置かれていたが、
パンも少しだけ置いており、”芋あんパン”を買っておく。
補給食をすべて食べてしまっていて、
食べ物を何も持ち合わせずに、
長い坂を上り始めることは危険過ぎると思った。
14時15分、「粉河」登頂開始。
今までのコースと違って「粉河」はずっと走りやすい。
整備された二車線の道路が続き、ゾッとするような坂もない。
ただ、序盤はなかなかだった。
さながら「十三峠」のようだ。
サラ脚ならまだしも、ここまで散々上ってきていたから辛かった。
しばらくして勾配が緩み始める。
ここから先はしばらく7%前後の坂道なのだが、
だからと言って何の余裕もなかった。
ギアは、インナー×ローで固定。
一時的に平坦に近づくような所があっても
シフトアップする気は全然起きなかった。
「身体はガタガタだけど、まぁ抑えながらなら上れなくもない‥か。」
そう考えていた矢先の出来事だった。
ズシッ‥‥
脚が重くなり、いきなり息が切れ始めた。
身体から力が抜け、少し悪寒もする。
この感覚には覚えがあった。
”ハンガーノック”だ。
あれだけ気を付けていたにも関わらず、
ここまで走ってきた6つの坂道によって
身体のエネルギーは、予想を上回るスピードで消耗していたようだ。
すぐさま後ろポケットの”芋あんパン”を取り出し、
走りながら口へと放り込んだ。
買っておいてよかった。
仮にこのまま上って行ったとしても
「ハイランドパーク粉河」までは、まだ5kmもあって、
とても持たなかったはずだ。
とりあえずの急場は凌げたものの
相変わらず疲労は強く、
身体が枯渇気味なのに変わりはない。
ただ単に「辛い」としか思えなかった。
「粉河」 記録58分15秒
予定よりも10分以上も遅い。
普通のライドだったら満足して帰っているだろう。
いや、満足と言うのなら、5つ目の「犬鳴」を上り切った時点で十分だ。
練習ならば既に「やり過ぎ」の状態で、
本来ならば走るのを止めるべきだろう。
だが、身体がまったく動かないわけじゃない以上、
ここで止めるという選択肢など、もちろん無かった。
ドラゴンボールが7つ全部集めないと願いが叶えられないように
『六葛』と『七葛』では、何かが大きく違うはずだ。
『七葛』の先にあるものを、ただ見てみたかった。
急いで「ハイランドパーク粉河」へと駆け込んで、何かないか探す。
「ニンニクのラー油付け」をすすめられたが、
今必要なものはそんなものじゃない。
補給食になりそうなもので、唯一羊羹が置いてあって安心した。
お土産用なので巨大だったが、豪快にかぶりつく。
最後の命綱として、一口だけは残しておいた。
「何か食べ物を持っている」という状況は精神的にも心強い。
温かいミルクティで、下がり気味の体温も上げておいた。
「神通(じんづう)」入り口に到着。
そして、15時50分、最終決戦が始まった。
「神通」は「粉河」の道と非常によく似ている。
「紀泉(きせん)高原スカイライン」と名付けられており、
途中、走り屋によってつけられたタイヤ痕が多く見られた。
1kmほどほぼ平坦な道を走った後、
少しずつ勾配が上がっていく。
「ここから10km上り続けるのか‥‥」
気持ちは下がり気味だ。
正直、「粉河」のときの身体の状態を思い出すと、
最後の1本といえども、頑張ろうという気力はどうにも起きてこなかった。
だが、実際に上り始めると、なぜかグイグイ踏んでいた。
明らかに残りの体力にそぐわないペースで、
すぐに失速するのは分かり切っている。
頭では「ダメだ」と思いながらも
身体は速くゴールを目指したがってるようだった。
すると、何故だろうか?
疲労が抜けているわけでもないのに、
しばらく経っても良い速度を保ったまま上り続けられている。
「粉河」では、力が抜けているように感じたが、
逆に、今は力が漲ってくるように感じた。
「最後だからアドレナリンが出ているのか?
羊羹を食べたからか?
それとも、
これが”セカンドウィンド”というやつなのかもしれない。」
とにかく理由はよく分からなかったが、ペースは落ちない。
4000m以上を上っていて体力はギリギリのはずなのに
これまでの6つのどのコースよりも力強く踏めていた。
「ハイランドパーク粉河」を通過。
残り3.5km。
「お前とも最後か‥‥」
「蕎原」「犬鳴」「粉河」「神通」
4つのコースが合流した後、
山頂手前1.3km地点に現れる300mのコンクリート区間。
”最後の番人”とも言えるような激坂で、
今までは蛇行しながら、体力を温存させて通過してきた。
だが、今回はまっすぐに、そして全力で上って行った。
ゴールに向かうにつれて、速度はどんどん上がっていく。
まるで疲労を忘れてしまったかのように身体は動き、
今まで冷静に物事を考えてきた頭の中は空っぽだ。
”ゾーン”に近い状態で、頂上だけを目指していく。
先に見えるのが、正真正銘の最後の坂だ。
胸に沸き起こってくる気持ちを感じながら、もがき倒す。
最後ぐらいは出し切って頂上に着きたかったのだ。
「神通」 記録44分0秒
午後16時34分、『七葛』を成し遂げる。
8時間43分にも及んだ長い闘いが終わった。
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和泉葛城山頂の景色
これまでの6回は素通りしてきた山頂。
「駐車場」と小さな「あずまや」、それから「神社」がある。
展望台は少し離れた場所にあり、山頂にしては殺風景な雰囲気だ。
”塔原”
”中尾”
”蕎原”
”牛滝”
”犬鳴”
”粉河”
”神通”
7つのコースはどこも違った特徴のある坂道だったが、
ゴールは毎回変わらずに、この場所だった。
ここに目立つ掲示板がある。
「岸和田ツーリングクラブ」がつくったもので、
サイクリストたちが”何時”に”どのコース”を上ったかということを記録している。
せっかくなので自分も記録を残しておくことにした。
『七葛』を終えて思うこと
「塔原」から下って、
【前編】の開始直前の写真と同じところから1枚。
こちらは9時間後のもの。
歳老いてから、同じ場所で同じポーズで写真を撮るみたいに
どこか感慨深いものを感じながら写真を撮ってみた。
【この一日の走行記録】
距離169.5km 獲得標高5,217m
開始前にエネルギーを溜め込み、
72kgまで膨れ上がっていた体重は、
次の日の朝には67kgまで落ちており、その過酷さを物語っていた。
『七葛』挑戦に際して、
何か強い思い入れがあったわけではない。
数年前に、そういった挑戦があることを知り、
それが頭の隅に残っていた。
そして、今回ふと思い出した際に
「やってみるか」と決めただけだ。
その日の内に計画を立て、3日後に実行に移した。
『七葛』を終えた今、挑戦して良かったと思っている。
それは「最高のトレーニングになる」
「補給の重要性を知れる」「楽に走る方法を模索することになる」
といった、次のライドに活きるということもあるが、
だが、それよりも”大きな意義”を感じていることがある。
「自分の限界と向き合えたこと」
今後、何か辛いことがあったとき
『七葛』に挑戦した経験が
少なからず支えになってくれると思える。
そういう意味で「成功した、しなかった」は、結果論に過ぎない。
失敗したとしても”己の限界”と向き合えたのだとしたら、
成功した場合とは少し異なった得るものがあっただろう。
このことは、あくまで自分の場合の話で、
これまで『七葛』に挑戦してきた先人たちの
「挑戦する意味」「感じたこと」は、それぞれで違ったものだっただろう。
だが、それでも『七葛』でしか得られないものあるとは断言できる。
自転車乗りで、それなりに走れる自信があるのであれば、
一度は挑戦してみる価値はあると思う。
最後に、これだけははっきり言っておきたい。
二度と御免だ。
完
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