松木です。
ツールで大活躍したチームSKY。
選手たちが乗っていたのはピナレロ『DOGMA F10』です。
そして、マイヨジョーヌを獲得したフルームと
山岳アシストを加えた3人にだけに支給されたのが、
『DOGMA F10 X-LIGHT』でした。
「形状」や「取り入れられているテクノロジー」は共通。
ですが、『F10』のフレーム重量が820g(53サイズ未塗装)なのに対し、
『F10 X-LIGHT』は760g。
60gの軽量化が、それほど走りに影響するとは思えませんが、
『F10』に比べて20万円も上乗せした価格で市販されます。
1g軽くするのに3,000円‥‥
何故そんなにお金がかかるのでしょうか?
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目次
樹脂の使用量を抑えたプリプレグ
原料となるカーボン繊維は、東レの最高グレード「T1100(G)」です。
これは『F10』と『F10 X-LIGHT』とで共通。
カーボンフレームは、
カーボン繊維を透明の液体「樹脂(=レジン)」に浸して、
上の写真のようにシート状にしたもの「プリプレグ」が基本材料になります。
『F10』と『F10 X-LIGHT』では、このプリプレグが違っており、
『F10 X-LIGHT』には、丈夫さを保ったままより少ない樹脂でできている
特殊なプリプレグが使用されています。
「樹脂が少ない=軽量化できる」というわけです。
複雑かつ工程数の多いカーボン積層作業
続いて、フレームの形をした芯材に
決まったプリプレグを、決まった位置に
ペタペタと貼り付けていきます(積層作業)。
この積層作業おいて、
『F10 X-LIGHT』のほうは複雑かつ工程数を増やしています。
少ない樹脂で『F10』並みの強度を出すためには、
プリプレグの配置をより細かく、最適化する必要があるのでしょう。
『F10 X-LIGHT』のためだけの専用金型
芯材にプリプレグを巻き付け終わったら、
それを、スチール製の金型に挟み込み、
オーブンへと入れて、圧を加えながら加熱します。
『F10』と『F10 X-LIGHT』は形状が同じですから、
同じ金型が使えそうなものですが、
実際は『F10 X-LIGHT』のために、専用の金型が作られています。
外見上は同じでも、プリプレグの積層は微妙に異なりますから、
”形状” ”厚さ”に目視では分からないレベルの違いがあり、
同じ金型を使うことは叶わないのだと考えられます。
400kgもある巨大な金型を作るとなると、相当お金がかかるはずです。
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より厳密に制御された長時間のモールディング
金型に挟み込んだフレームはオーブンに入れられ、
フレームの内外から圧をかけながら
高温で加熱して樹脂を固まらせます(モールディング)。
『F10』と『F10 X-LIGHT』では、この過程も異なります。
『F10 X-LIGHT』の場合は、
より気を遣いながら、長時間かけてモールディングしています。
温度や加える圧力を、細かく調整しているのかもしれません。
このように制御されたモールディングを行うことで、
フレームの強度、性能を保ちながらも
軽量化の肝となる「樹脂の量」を最小限に抑えることができるそうです。
一本製造するごとに、金型を徹底的に清掃している
オーブンによるフレームの加熱が終わり、
フレームが外された金型には、
わずかに樹脂、カーボン繊維が残ってしまいます。
その状態の金型で次のフレームを挟んだとしても
後の塗装で、表面の細かいカスは隠れますし、
最終的なフレームの性能には、何ら問題は生じません。
ですが、『F10 X-LIGHT』の場合、
重量増につながる”余計なもの”を排除するため、
一本製造するごとに、金型を徹底的に清掃するようにしています。
60gの軽量化に20万円かかる理由
『F10』と『F10 X-LIGHT』の大きな違いは、
フレームに使用されている「樹脂の量」です。
ほぼ限界まで軽量化された『F10』から
さらに60gの樹脂を削り出すため、
「人員」「設備費」「時間」、すべてを余計に費やして
細部に気を遣いながら製造していることが分かりました。
それ故に生産数が限られて、
プロでさえ全員に供給されるわけではありません。
ピナレロの「一切の妥協も許さない」姿勢と手間には
確かに20万円分の価値があるのかもしれません。
ですが、『F10』と『F10 X-LIGHT』の性能差は少ないですし、
『F10 X-LIGHT』には、75kgという重量制限も付いてしまいます。
市民レーサーなら『F10』を選ぶのが普通でしょうね(笑)
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