松木です。
先日発表された2017年モデルのPINARELLO『DOGMA F10』。
パッと見では、前作の「F8」と変わりないように思えますが、
一体どこが変わったのでしょうか?
「ドグマ F10」に詰められた”技術の深み”を見ていきます。
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DOGMA F10とF8の違い
F10とF8の違い。
主な変化は上の図の5箇所に集約されます。
①フレーム全体の形状の見直し
F8で突き詰めた基本性能を維持しつつ、
「よりエアロに、より軽く、より強く」というのが開発コンセプト。
その結果、F8と比較して
「12.6%の空気抵抗削減」(150km走行で2分のタイム短縮効果)
「860g→820gと、フレーム重量40gの軽量化」
「フレーム剛性の7%向上」
トップチューブなどは▢形状だったのが、
▽になっていたりしますが、
形状面での違いは、見比べてもほとんど分かりません。
DOGMA F8↓
②整流効果を高めるフロントフォークの「フォークフラップ」
フォーク先端で、後方へと伸びる小さなフィン。
ピナレロのアワーレコードバイク「BOLIDE HR」に使用されている技術で、
クイックリリースによって生み出された空気の乱れを整える効果があります。
上がフォークフラップあり。
濃い青が減っていて、
確かに空気抵抗は少なくなっているようです(笑)
③空気抵抗を大幅に減らすダウンチューブの「コンケーヴ(凹)」
ピナレロのタイムトライアルバイク「BOLIDE TT」に採用されている形状で、
ボトルケージ装着時の空気の流れ(エアフロー)を最適化しています。
「F8」はただの四角形状でしたから、
これは目に見える大きな変化と言えますね(^^)
それから、細かい点ですが、
ダウンチューブ側のボトルケージ穴は
BB付近に追加されて2つから3つに増えています。
取りやすさよりも空気抵抗を優先させるなら
下2つの穴を使ってボトルケージを固定させます。
ただ、小さいサイズのF10は、スペースの関係上、
ダウンチューブのボトルケージ穴は2つのままです。
④新型Di2「9150」のジャンクションAに対応するeLINKシステム
Di2のジャンクションAが、
ダウンチューブに埋め込みできる構造になっている「eリンクシステム」。
DURA-ACE R9150の内臓ジャンクションA「EW-RS910」は
フレームやバーエンド部分に埋め込みできるんですが、
F10では、これにいち早く対応したフレームになっているんですね。
「電池残量の確認」と「内部バッテリーの充電」、
そして「変速調整」と「マニュアルシフトモード⇔シンクロシフトモードの切り替え」も
このジャンクションAから簡単に行うことができます。
ジャンクションAの取り付け動画です↓
⑤アシンメトリー形状の最適化
左がF8、右がF10。
よ~~く見ると、ドライブ側がほんの少しだけ外に張り出しています。
ドグマって、クランクの2~5時の踏み下ろしが
不思議と”スッと”軽く感じるんですが、
このアシンメトリー形状は、そのことに大きく関係していて、
ほんの1mm程度の違いが、ぺダリングに大きく影響します。
少なくとも「フォークフラップ」よりは、
速さへの貢献度は大きいはずですw
DOGMA F10が良いと感じる5つのポイント
ドグマ F10の「ここが良い」と思う箇所が5つあります。
①専用ハンドルではない
最近のエアロロードバイクは、
エアロ効果を狙って専用品のハンドルが多いですが、
F10に関しては、通常のハンドルとステムが使えます。
(完成車には、上の写真のような流線型のステムとコラムスペーサーが付属)
やっぱりポジション的な面と、メンテナンス性を考えると
専用ハンドルのデメリットかなり大きいと感じています。
F10は、最新のエアロロードバイクでありながら、
この一線を越えていません。
②ブレーキが至って普通
BB下にリアブレーキを取り付けているエアロロードバイクも多いですが、
その場合、クランクを踏み込んだ際のフレームの歪みによって、
ホイールにシュータッチしてしまうので、
どうしてもクリアランスを広めにとらなければいけません。
つまり、ガバガバにせざるを得ません。
あとダイレクトマウントブレーキなんてのも多いですが、
シューのセンタリング調整などはやや面倒だし、
一部のエアロロードに見られる専用ブレーキなんてのは
効きもメンテナンス性もひどいもんです。
F10はユーザビリティを優先して、
ノーマルキャリパーブレーキを採用していますが、
プロメカニックとして数々のブレーキを触ってきた結論として、
通常のブレーキ以上に優れているものはないです。
③ケーブルの取り回しに無理がない
”ケーブルの完全フレーム内臓”
響きと見た目は美しいかもしれませんが、
エアロ効果はそれほど大きくはなく、
メンテナンス性の悪さが目立ちます。
場合によってはブレーキの引きが重くなったりして、
性能面でのデメリットも少なくありません。
その点、F10に関しては、ケーブルの内臓部分が理想的で、
しかも、ケーブルがフレームに入っていく位置も無理がありません。
ヘッドチューブだったり、トップチューブ上だったりすると、
やっぱり、見た目も良くないですし、引きも悪くなる原因になりますからね(^^;↓
④BBがイタリアン式のネジ切り
最近のカーボンフレームは、
ほぼすべて圧入式ですが、
ピナレロはネジ切りBBを堅守し続けています。
圧入式の良い点は、「剛性アップ」という部分なんですが、
代わりに”音鳴り”という悩みを常に抱えることになります。
BBが圧入である以上、
どんな規格、どんなグリス、どんなBBを使おうと、
音鳴りの可能性は、ネジ切り式のBBよりは確実に高くなります。
圧入BBによって剛性が上がることは分かりますが、
ペダルを踏むごとに「バッキバキ」聞こえるのは気持ちの良いもんじゃありませんから、
F10みたいに、ネジ切り式のBBのまま、他の部分でBB周辺の剛性アップを図るのが望ましいです。
⑤シートポストもよく考えられている
専用のエアロシートポストを固定するために、
クランプするのではなく、横から押すようにして止めるのが一般的ですが、
その分、固定力が落ちてしまいます。
その結果、「段差などで数mmずつズレる」という現象が起こってしまうわけです。
エアロロードやTTバイクを人は、
少なからずこの問題に悩まされます。
この点もF10はよく考えていて、
シートポストを、1か所ではなく2か所、さらに広い面で固定することで、
仮に石畳の上を走ろうとも、シートポストがずれないようにしています。
シートポストがズレやすいというのは、結構ストレスを感じますから、
地味な技術(「TWIN FORCE」システム)ですが、すごく助かります。
DOGMA F10の乗車インプレッション
- 登り、平地、下り、あらゆる場面で”速い”
- トータルバランスは、乗りやすさのあるF8のほうが上
- ハンドリングはクイックで操縦性が高いながら、高速になると安定する
- フロントフォークの剛性が高く、高速の下りでたわまない
- BB周辺に硬さを感じ、反応性、加速性の高さが際立つ
- 快適性も決して悪くない
シンプルに”勝つ”ことが至上命題のバイクだと思います。
レースなど出ず、のんびりロングライドを楽しむようなフレームじゃありません。
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DOGMA F10のまとめ
このDOGMA F10は、
ライダーとして見ても、メカニックとして見ても
ほぼ完璧に近いほど抜け目がありません。
フレームセット価格は、
税抜き¥625,000と、かなり高いですが、
それだけの価値は十分ある車体に思えます。
「なんじゃこりゃ!!」と叫んでしまうような
キャッチーな見た目ではありませんが、
ピナレロが出した最速の答えがF10フレームであり、
それは、自分が思い描く理想のロードバイクフレームに限りなく近いものでした。
「軽さ」、「エアロ」、「剛性」、「メンテナンス性」。
単体性能でF10を上回るフレームはごまんとありますが、
それぞれの性能を点数化して、その総合得点を性能とした場合、
F10以上のものは、ほぼ皆無と言えるでしょう。
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