松木です。
2月のアブダビツアーにて初お目見えとなった
キャノンデールのエアロロード『SystemSix(システムシックス)』が
ツールを目前に遂にベールを脱ぎました。
日本時間7月2日22時が解禁日時だったようで、
本家HPや自転車情報メディアが一斉に公開。
『システムシックス』の形状的な特徴や
搭載されているテクノロジーなどは、上のサイトに任せるとして、
”世界最速のエアロロード”を謳う『システムシックス』に
科学的の観点から迫りたいと思います。
スポンサーリンク
目次
『SystemSix』に見られる特徴的なエアロ形状
流線形のシッポを切り押した「カムテール」
縦幅が十分でないと、
フレームに沿うように空気が流れてくれず、
実は空気抵抗が大きくなってしまいます。
※図の「急にすぼまる」=「空気の剥離」=「空気抵抗が大きい」
というのがよく分からなければ、下の記事を参考に。
続いて、流線形のシッポを切り押した
いわゆる「カムテール」と呼ばれる形状。
縦幅が足りない流線形よりも空気抵抗は小さくなります。
そのため、このフレームに適した「カムテール」形状が
『SystemSix』の多くの箇所に採用されています。
ヘッドチューブ下部付近に見られる「Chine」
ダウンチューブのヘッドチューブに近い部分がエグれています。
これが「Chine(チャイン)」と呼ばれるデザインで、
「フォークに沿って吹き上がってきた気流を後方へと流す」
という役割を果たしてくれます。
この「Chine」によって、
「ヘッドチューブを通過した空気の流れ」と、
「フォークから吹き上がってきた空気の流れ」がぶつからずに済み、
結果、乱流が発生してしまうのを抑えることが可能。
この理論は初耳ですね(^^)
他社8モデルと比較した風洞実験データ
『自転車単体』『時速30mph(≒48.28km/h)』
という条件における風洞実験データです。
20°のヨー角でCervelo『S5』に後れを取っている以外は、
すべてのヨー角においてCdA(空気抵抗係数)が最小。
続いて、
この折れ線グラフ(①)に「ヨー角の重み付け」(②)を組み合わせて、
「重み付けされた空気抵抗カーブ」(③)を作成します。
(現実世界において、大きいヨー角の風が吹く割合は低い)
それを数学的に棒グラフ化(④)。
『Classic Road Bike(=SuperSix Evo)』を含めた10モデルに対して、
その処理を行ったグラフが次の通りです。
やはり『SystemSix』の空気抵抗が最小。
(正確には「ヨー角の重み付けが為された空気抵抗係数」)
さらに、この棒グラフを元に
『時速30mph(≒48.28km/h)』における必要パワーを算出。
このグラフから判断する限りでは、
- TREK『Madone 9』より-6w
- Cervelo『S5』より-10w
- Scott『Foil』より-24w
- 『SuperSix Evo』より-56w
これは素晴らしい……
ちなみに、『SuperSix Evo』比で、
- 35km/h:-26w
- 32km/h:-20w
- 30km/h:-17w
となっており、低速であったとしてもエアロ効果は十分発揮されます。
『SystemSix』は勾配何%まで『SuperSix』より速いのか?
※「機械効率ロス」は、フレーム等のたわみにより失われるエネルギーで一定(3%)
75kgのライダーが300wで走った際、
各抵抗が占める割合を示しているグラフです。
大雑把な傾向としては、勾配がキツくなるほど、
「空気抵抗」「転がり抵抗」の割合が小さくなり、
「重力に逆らって登るのに必要な力」の割合は大きくなります。
では、何%の勾配まで『SuperSix Evo』(1kg軽いが、空気抵抗は大)より
『SystemSix』(1kg重いが、空気抵抗は小)のほうが速いのでしょうか?
その答えが、次のグラフです。
出力300w、体重75kg、つまりパワーウェイトレシオ4w/kgの場合では、
およそ6%が境界線(これを「ティッピングポイント」と呼ぶ)となります。
ただし、パワーウェイトレシオが4w/kgよりも大きい場合、
より速度が出て「空気抵抗」の占める割合が高くなるため、
必然的にティッピングポイントも6%より大きくなります。
このティッピングポイントは、
4w/kgでは6%、5w/kgでは7%弱だと公表されています。
また、グラフから読み取ると、
およそ3w/kgで5%、6w/kgで8%弱だと見当がつきます。
例えば「Mt.富士ヒルクライム」のケースですと、平均勾配は5.2%。
そして、90分以内のブロンズリングを獲得できるような人なら、
平均出力が3w/kg強は出ている計算になりますから、
『SuperSix Evo』ではなく『SystemSix』で挑むほうが良いタイムが出せることになります。
続いて、世界一有名な峠「アルプ・デュエズ」(距離13.8km/平均勾配8.1%)。
62㎏のライダーが350w(5.65w/kg)で登ったとしても、
『SuperSix Evo』のほうが10秒速いです。
ティッピングポイントは「6w/kgで8%弱」でしたから、
8.1%の「アルプ・デュエズ」のティッピングポイントは6w/kg強。
つまり、62㎏の人なら380w(6.13w/kg)で踏み続けられれば、
『SystemSix』のほうが速く登れますね!(無茶かw)
スポンサーリンク
スプリントにおける『SystemSix』の優位性
『SuperSix Evo』と比較した場合、
1000wの200mスプリントにおいて、+2.1km/h、-0.4秒、7.2m先行。
ダウンヒルにおける『SystemSix』の優位性
【-5%】
『SystemSix』@200w:60.6km/h
『SuperSix Evo』@309w(+109w):60.6km/h
『SystemSix』@0w:53.1km/h
『SuperSix Evo』@0w:49.9km/h(-3.2km/h)
【-6%】
『SystemSix』@0w:63.6km/h
『SuperSix Evo』@130w(+130w):63.6km/h
【-8%】
『SystemSix』@0w:74km/h
『SuperSix Evo』@0w:68.6km/h(-5.4km/h)(1km当たり+4秒、-80m)
ドラフティング中における『SystemSix』の優位性
同じく『SuperSix Evo』と比較。
単独走行の場合は、48km/h走行において-50w以上削減。
ドラフテフィング中、空気抵抗は40%ほど小さくなりますが、
それでもまだ-30wも削減してくれます(1km当たり-4秒)。
フレーム単体重量
ペイントで+70g、フレーム小物で+65g。
つまり、54サイズの実際のフレーム単体重量は、
957g+70g+65g=1092g(⇔『S5』54サイズの実測が1065g)
決して「十分に軽い」とは言えない重量ではあるものの、
「エアロ」の恩恵の大きさを考えれば、
目をつぶることができる程度の重さだと感じます。
フレーム剛性
『SystemSix』は、サイズごとにフレーム剛性を最適化。
「ヘッドチューブ(HT)剛性」(「ハンドリング」に影響)と
「BB剛性」(「パワー伝達性」に影響)に関して、
キャノンデールが”合格”と定める基準を、全サイズでクリアしています。
どうやら「エアロロード=剛性不足」といった心配は無さそうですね(^^)
ホイール『Hollowgram KNOT 64』
【仕様】ディスクブレーキ、カーボンクリンチャー
【公表重量】1,642g(F:765g、R:877g)
【リムハイト】64mm
【リム幅】外幅32mm、内幅21mm
【スポーク数】F:20本、R:24本
リム幅が尋常じゃありません……
内幅21mmはチラホラと見かけますが、
外幅32mmというのは聞いたことがありませんね(^^;
この極太のリム設計には
- 空気抵抗の削減
- 乗り心地の向上
といった2つの狙いがあります。
外幅32mmによる「空気抵抗」の削減
フレームの「カムテール」の理屈と同じく
リム幅が広いと、上記のように空気の剥離が起こりづらく、
空気は後方へとキレイに流れていってくれます。
こちらが、他社6モデルと比較した風洞実験データ。
『KNOT 64』は、どのヨー角でも
優れたCdA値(空気抵抗係数)を誇っていますが、
特に-15°以上の横風に強い印象です。
そして、先ほどのフレームの時と同様に
「ヨー角の重み付け」処理を行ってから棒グラフ化。
(縦軸:25mph(≒40.23km/h)における「ヨー角の重み付けが為された空気抵抗係数」)
他社ホイールをおさえて最小値を記録。
内幅21mmによる「快適性」の向上
また、内幅の広い『KNOT 64』に「GP4000s Ⅱ」23c、25cを取り付けると、
それぞれタイヤの太さは26mm、28mmまで膨れ上がります。
キャノンデール曰く、ロードバイクの「快適性」に重要なのは”タイヤ”。
そして、表記よりも実測値が+3mmタイヤが太くなる『KNOT 64』は、
ロードバイクの「快適性」にも大きく貢献してくれると主張します。
以上、様々な科学データを見てきましたが、
『SystemSix』に掲げられた
〝Faster Everywhere(どこでも最速)〟
このコンセプトに、嘘偽りはなさそうです。
スポンサーリンク