松木です。
2019年モデル新型『Madone SLR』。
Cannondale『SystemSix』、
Specialized『S-Works Venge』、
BMC『TimemMachine Road』。
メーカーの威信を賭けたエアロロードが、相次いで発表されていますが、
どれも「更なる”エアロ”と”軽量”」に主眼を置いて開発されています。
ですが、新型『Madone』だけはどうも異なる様子……
「ディスク化、新型IsoSpeedなどの機能を追加」
⇒「そのままでは空力、重量が前作よりも悪化」
⇒「細部の見直しを図って、空力、重量を前作と同水準まで改善」
前作で世界最高レベル達していた「空力」と「重量」は、
「前作より悪化しない」というのを合格ラインと定め、
調整式トップチューブIsoSpeedなどの付加価値を与える方に注力。
さて、前置きはこれぐらいにしておきます。
早速、前Madoneとの比較を交えながら、
新型Madoneに搭載されているテクノロジーの真髄へと迫りましょう。
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目次
新型Madoneのテクノロジー
- 調整式トップチューブIsoSpeed(最大のトピックス)
- 機能性が向上した2ピースエアロハンドルバー
- ジオメトリーがH1.5の1種類に統一化
- 空力は維持
- その他3つの改良点
調整式トップチューブIsoSpeed
前マドンでは、図の赤いチューブがフレーム本体と独立。
地面から衝撃を受けると、
このチューブがシーソーのように前後に動く、という仕組みでした。
新型マドンのIsoSpeedは、前マドンとは全くの別物。
- 好みや路面状況に合わせて、振動吸収性を調整できる
- IsoSpeedの稼働後、元の状態に「滑らかに」かつ「素早く」戻る
この新たな2つの特徴を備えています。
構造
メカニズムを説明する前に、
まずはIsoSpeedの構造を把握しておかなければ、
チンプンカンプンになってしまうでしょう。
逆に言えば、構造さえちゃんと頭に入っていれば、
IsoSpeedのメカニズムは簡単に理解できるはずです。
IsoSpeed部分のCADモデルです。
「フレーム本体」と「赤で塗った部分」から構成されています。
「赤で塗った部分」は「フレーム本体」を突き抜けて繋がっていますね。
以下、「赤で塗った部分」を
その形状から「ブーメラン」と呼ぶことにしましょう(笑)
他の構成部品は、
- 軸:IsoSpeedの支点
- スライダー:振動吸収性を調整するための肝となるパーツ
- ダンパー搭載部分:IsoSpeed稼働後、元の状態に「滑らかに」かつ「素早く」戻すための肝となる部分
続いて、”スパッ”と真っ二つに切ったCADモデル。
先ほどと同様「フレーム本体」と「ブーメラン(赤)」を塗り分けました。
この図は大事なので、後にも何度も登場します。
図のダンパーの正式名称は「エラストマーダンパー」と言います。
平たく言えば”小さなエラストマー”です。
ここまでが調整式トップチューブIsoSpeedの「構造」の説明。
続いて、その「メカニズム」の解説に移ります。
振動吸収性を調整できるメカニズム
「フレーム本体」と「ブーメラン」の間に
”すき間”が設けられているのがポイント。
路面から衝撃があった際、
「ブーメラン」は図のように動きます。
すき間が存在する
⇒「支点~スライダー」間のブーメランが、上方向にしなることができる
⇒ブーメランのシートチューブ部分が後方に動ける
⇒サドルに伝わる衝撃が緩和される
これが、新型Madoneに備わっている
調整式トップチューブIsoSpeedの基本的なメカニズムです。
では、この振動吸収性をどのように調整できるのでしょうか?
スライダーを中間までスライドさせてみましょう。
スライダーによって抑え込まれているブーメランは、
「支点~スライダー」の間でしか上方向にしなることができません。
スライダーを後方へとスライドさせる
⇒「支点~スライダー」間が縮まり、ブーメランが上方向にしなりにくくなる
⇒ブーメランのシートチューブ部分が、後方に動く量も減ってしまう
⇒サドルに路面の衝撃が伝わりやすくなる
スライダーによってブーメランの動きが、
うまく制御されている事が分かりますね(^^)
振動吸収性を示すデータ
(縦軸:「垂直方向の剛性」とは、具体的には「フレーム後部の縦剛性」)
新旧Madone(56サイズ)の振動吸収性を示す比較データです。
前Madoneに比べ、新型Madoneのほうは、
+17%~-22%という振動吸収性の調整幅を実現。
もう一つの特徴として、
サイズによるフレーム後部の縦剛性の差が、
3~6%という狭い範囲で収まっていること。
これは、どのサイズであっても
ブーメラン自体のサイズは、ほとんど変わらないため。
一般的に、フレームチューブが長い程よくしなるため、
サイズによって30~40%も違ってくるケースもありえるそうです。
(必然的に、小さいサイズは「乗り心地が悪い」ということに……)
この事実を先ほどのグラフに当てはめると、次のようになります。
前マドンの場合だと、フレームサイズによって、
グラフが上下に大きくシフトしてしまいますが、
新型マドンではフレームサイズに関係なくほぼ不変。
以上、新型IsoSpeedの「振動吸収性の調整」についてでした。
実はこの調整機構、現行モデル『Domane SLR』のIsoSpeedとほとんど同じ。
ただし、空力を低下させないために
新型マドンではトップチューブに配置されている、という点だけ異なります。
IsoSpeed稼働後、元の状態に「滑らかに」かつ「素早く」戻るメカニズム
ブーメランの軸付近の透視図です。
赤丸で囲んだパーツが「エラストマーダンパー(以下、エラストマー)」。
そして、こちらが中央断面図。
エラストマーはブーメランの出っ張りに接しているだけでなく、
”若干押している状態”を維持しています。
さて、ここで路面から衝撃があった際の
このエラストマーの働きを考えてみましょうか。
まず、これまで見てきた通り、
ブーメランは軸を中心として反時計周りに動きます。
ですので、ブーメランは
エラストマーから遠ざかる前方に動くことになりますね。
その後、元に戻ろうとしますから、
ブーメランは先ほどとは逆向きの動きをします。
つまり、今度はブーメランが
エラストマーに近づく後方に動くことになりますが、
この戻ってきたブーメランを受け止めて威力を殺すのが、エラストマーの役割。
エラストマーの効果を示しているデータがあります。
図のように直線変位センサーを装着して
「サドル~リアアクスル」間の距離を測定。
スライダー位置3パターン×エラストマーの有無2パターン=6パターンに、
「前マドン」を加えた計7パターンの条件にて実施。
まず、路面からの衝撃を受けると、
「サドル~リアアクスル」間の距離は4~5.5mm縮まります(①)。
その後、反動によって
「サドル~リアアクスル」間の距離は広がっていき、
元の位置より更に1.5~2.5mmまで遠ざかります(②)
②の部分を拡大。
スライダー1の赤とピンクの2本に着目すると、
エラストマーによって、下側への振れ幅は最大13%軽減されています。
- サドルから体が離れる感覚を受ける
- サドル上のポジションを調整し直さないといけない
- 長時間続くと、徐々に疲労が蓄積していく
反動がうまく減衰されないと、こういったデメリットが起こりえます。
新型マドンのIsoSpeedは、
振動吸収性が調整式となって快適性が向上しただけでなく、
衝撃を受けた”後”にライダーが感じる不快な動きを軽減させる
よりコントロールされた振動吸収システムが構築されています。
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2ピースに分割されたハンドルバー
前マドンのハンドルステム一体型ハンドル。
7万超えで、ポジションが出ていなかったとしても
気軽に交換することは、そう簡単にできない代物でした……
マドン購入を思いとどまらせるハードルになっていましたね(^^;
それが、新型マドンでは2ピース化。
ハンドルサイズは、38/40/42/44cmの4種類。
単体予定価格¥41,610(税抜)
ステムの角度-7°/-14°の2種類×長さ90/100/110/120/130の5種類=計10種類。
単体予定価格¥36,410(税抜)。
さらに、ハンドルの取り付け角度(送り・しゃくり)も±5°まで可能。
これだけ調整の選択肢があれば、
ポジション出しに困ることは無いでしょうね(^^)
また、新旧見比べると、新型ハンドルのほうは、
上ハンドルの持ちやすさを考慮して、
やや後方に下がって(バックスウィープして)います。
ちなみに、現時点では、新型マドンには
このハンドルしか取り付けられませんが、
通常のハンドル&ステムを装着できるようにする
コラムスペーサーもいずれ発売される予定。
ジオメトリーH1.5
ヘッドチューブが短く、レーシーなポジションが取れるH1フィット。
へッドチューブが長く、アップライトなポジションが取りやすいH2フィット。
それらが廃止され、ジオメトリー「H1.5」の1種類に統一されました。
具体的には、H1.5のヘッドチューブは、
「H1より+11mm長く、H2より-19mm短い」という長さになります。
ヘッドチューブの長さの変化に引きずられるように
スタックが若干長く、リーチは若干短くなっていますが、
Madoneらしい走りの質が保たれるように
その他の部分のジオメトリーを変化させていません。
エアロが維持されていることを示すデータ
「サンディエゴ・ロースピード風洞施設」にて、
30mph(≒48.3km/h)という条件でテスト。
脚が回転するマネキンを乗せ、
装備もなるべく現実のライド状況に近づけています。
【空気抵抗値】
前Madone:3202g
新型Madone:3216g(+14g)
この14gの差は、風洞施設の実験で発生する誤差の範囲内。
つまり、新型Madone開発当初に掲げていた
「±12.5°のヨー角における空力性能を、前Madoneと同じ水準に保つ」
という目標は、どうにか達成されています。
その他3つの改良点
コントロールセンターの位置を最適化
Di2ジャンクションAとバッテリーを収納できる「コントロールセンター」。
前マドンでは、ダウンチューブのヘッドに近い位置にありました。
新型マドンでは、ダウンチューブのボトルケージ取り付け位置へと移動。
ここであれば、ボトルに隠れて見た目は損なわれませんし、
重心もわずかに下がって、一石二鳥だというふうに感じます。
収納できるパーツは、ジャンクション「A」ではなく「B」、そしてバッテリーです。
追い出されたジャンクションAは、
バーエンドタイプ『EW-RS910』の使用が前提となっています。
シートポストの固定方式がスマートに
前マドンでは、2本のネジを締め付け、
シートポストを”引き寄せる”ことで固定していました。
新型マドンでは、固定パーツを内蔵化。
②の部分がブーメランに”押し付けられる”ことで、
シートポストが固定される、という仕組みです。
「シートポストがズリ落ちてくるのでは?」
という一抹の不安を感じなくもありませんが、
確かにこちらのほうが断然スマートですね(^^)
リムブレーキモデルのフロントブレーキ位置が移動
フォークの”前”だったフロントブレーキは、
新型マドンでは、フォークの”後ろ”へと移動。
細かな段差が少なくなり、
しかもダウンチューブとのつながりも滑らかで、
空力性能を高めることに一役買っています。
ケーブルの取り回しが面白いですね。
フォークコラム前を下ってきたワイヤーは、
フォークのコラム部(左)、クラウン部(右)それぞれに開けられた穴を通り抜け、
最終的にフロントブレーキへとアクセスされます。
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ラインナップ&重量
モデル名 (カラー/フィット) |
ブレーキ& フォーク重 |
カーボン& フレーム重 |
メインコンポ | 税抜価格 | 特徴 |
Madone SLR 9 (4色展開/H1.5) |
ディスク 421g |
OCLV 700 約1100g |
DURA-ACE R9170 |
¥1,139,000 | 最高グレード |
Madone SLR 6 (7色展開/H1.5) |
ディスク 421g |
OCLV 700 約1100g |
ULTEGRA R8000 |
¥686,000 1色¥+78,000 |
コンポとホイールで価格を抑えたモデル |
Madone SLR 8 (4色展開/H1.5) |
リム 378g |
OCLV 700 約1100g |
DURA-ACE R9100 |
¥820,000 | 最上位ではないが一応ディープリム |
Madone SL 6 (1色展開/H2) |
リム 375g |
OCLV 500 1260g |
ULTEGRA R8000 |
¥462,000 | 前Madoneと同じもの |
※「Project One」なら、フレームセット¥501,610(ハンドル&ステム別売)も注文可能
「SLR」がOCLV 700カーボンを使った新型フレーム、
「SL」はOCLV 500カーボンを使った旧型フレームです。
”9”、”8”、”6”という数字は、アッセンブルされる
コンポ、ホイールのグレードを表しています。
そして、表にある「重量」については、
サイズ/カラーリングによっても随分と異なってくるため、
「平均するとそれぐらい」という目安程度のもの。
具体的な「カラーリング」はTREKのHPをどうぞ(^^)
また、カスタムカラー「Project One」では、
極上の質感と深みによって、独特のムードを纏う新シリーズ
「ICON」5色が追加されています(+¥112,000)。
クローム・ツール。
真珠のようなパールホワイトに
メタリックレッド&ブラック。
トレック・セガフレードが、ツール・ド・フランスで使用するカラーです。
リフリップティブ。
マジョーラに近いカラーリングで、
眺める角度によって色合いが千変万化します。
キャンディ・エメラルド・グリーン。
スプリンターが好みそうです(笑)
ブラッシュド・リキッド・メタル。
他の4色に比べれば落ち着いていながらも、
絶妙に惹かれるような風合いがあります。
ブラック・ゴールド。
散りばめられたゴールドのラメが、
上品でエレガントな雰囲気を醸し出します。
以上、2019年『Madone SLR』の主な特徴を取り上げました。
触れてませんでしたが、
カーボン積層・フレーム形状は細かく最適化され、
「ヒルクライム」「コーナリング」「スプリント」など
各性能もブラッシュアップさせてきた模様。
全方位に死角が無さすぎる新型マドンに乗れば、
ライバルの二歩、三歩先を行くライドクオリティを堪能できることでしょう。
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