松木です。
先日行われた「ニセコクラシック2017」。
140kmクラスには、名だたる強豪ホビーレーサーが集まり、
昨年より20分もゴールタイムの速いハイレベルなレースとなりました。
結果は、ラスト600mの坂道(6~7%)で
高岡選手を引き離すことに成功した田崎選手が優勝。
詳しいレース展開は、シクロワイアードの記事を読んでみて下さい。
「ニセコクラシック」のコースプロフィールです。
中盤に25kmの平坦があるものの、
コース全体に渡ってアップダウンが続き、
途中、平均勾配5%ほどの緩斜面ながら、700m級の峠も登場します。
結果、平坦区間を除いた115kmの間に2300m以上登るという
なかなかのハードなコースになっています。
こちらは、終盤に田崎選手と高岡選手の一騎打ちとなったときの写真。
お二人の装備を見ていると、
スキンスーツ、ヘルメット、グローブなど、
どれもエアロ仕様で「空気抵抗を意識している」共通点があるのですが、
ホイールに関してだけは、考え方が違っているように思います。
高岡選手が、超軽量の「Lightweightホイール」だったのに対して、
優勝した田崎選手は、空力の高い「SACRAホイール」(4G-50-CL)。
田崎選手は日本屈指のヒルクライマーですから、
1kgほどの軽量ホイールも所有されているはずです。
それなのに、
公表重量1590gのSACRAホイールをあえて選択したことになります。
”ホイールの「軽さ」と「空力」、どちらを優先すべきか?”
真剣に競技としてロードバイクに取り組んでいるのであれば、
常につきまとうであろう、この問題。
ホイールメーカー「FLO」が行った実験を元に考えていきましょう。
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目次
「空気抵抗」VS「重量」:FLOが行ったタイムシミュレーション
ホイールメーカーのFLOは「Best Bike Split」というソフトを使って、
ホイールの「空気抵抗 vs 重量」という内容の実験を行い、公表しています。
「自転車走者のFTP」(この実験では250wに設定)、
「自転車走者の体重」(この実験では77kgに設定)、
「自転車のホイール、タイヤなどの装備」などのデータを入力すると、
複雑な演算を行って、コースの予想ゴールタイムが算出されるそうです。
そして、タイムシミュレーションに使ったホイールは以下の5種類。
- Mavic Open Pro(軽量版):1100g
- Mavic Open Pro(重量版):2259g
- FLO 30/30:1624g
- FLO 60/90:2074g
- FLO 90/DISC:2259g
「Mavic Open Pro」は、20mm弱のローハイトアルミリム。
「FLO」の各ホイールのほうは、
ブレーキ面がアルミになっているアルミ+カーボンのディープリムで、
数字は、単純に「リムハイト」を表しています。
実験① 距離180.2km、獲得標高302m
ほぼ平坦の「Ironmanフロリダ」コースを使い、
FTPのおよそ75%の187.5wで走ったときのタイムシュミレーション。
- Mavic Open Pro(2259g):5時間21分44秒(基準)
- Mavic Open Pro(1100g):-2秒
- FLO 30/30(1624g):-6分16秒
- FLO 60/90(2074g):-7分34秒
- FLO 90/DISC(2259g):-8分49秒
予想通りディープリホイールのほうが、圧倒的に有利という結果です。
「Mavic Open Pro (1100g)」の平均時速が33.6km/hなのに対して、
「FLO 90/DISC」のほうは34.5km/hで、+0.9km/h。
仮に、
「Mavic Open Pro (1100g)」を履いて時速34.5km/hで走るとなると
203w必要となる計算になりますから(出力は速度の3乗に比例)、
「FLO 90/DISC」を使うことによって
203-187.5=15.5w削減できたことになります。
(リムハイト30mmの「FLO 30/30」でも10w以上削減できる)
もう一つ注目すべきは、
1kg以上軽い「Mavic Open Pro (1100g)」のタイムが
2秒しか短縮されないという点です。
以下の記事にも書きましたが、
1kg軽くなると獲得標高100mにつき、物理的には3~4秒短縮できるはずです。
ヒルクライムにおける「軽量化のタイム短縮効果」と「減量」について
つまり、平坦基調の「Ironmanフロリダ」コースとは言え、
3~4×302/100(獲得標高)×1159/1000(重量)=10.5~14秒
タイム短縮できるはずですが、
「Best Bike Split」ソフトがはじき出したのは、たったの-2秒。
これは、軽さによるデメリット
「ホイールの回転慣性が働きづらい」もしくは「下りで不利」ということが、
ソフトの演算に組み込まれているのだと考えられます。
実験② 距離180.2km、獲得標高1405m
続いては、適度に上りのある
「Ironmanコーダリーン」コースでのタイムシュミレーション。
- Mavic Open Pro(2259g):6時間1分36秒(基準)
- Mavic Open Pro(1100g):-1分42秒
- FLO 30/30(1624g):-4分48秒
- FLO 60/90(2074g):-5分25秒
- FLO 90/DISC(2259g):-5分50秒
さすがに、コース途中に峠がありますから、
1kg以上の差のある「Mavic Open Pro」同士を比較した場合、
軽量版のほうが1分42秒のアドバンテージがあります。
ですが、「Mavic Open Pro (1100g)」と
1kg近く重い「FLO 60/90 (2074g)」を比較した場合、
「FLO 60/90 (2074g)」のほうが、3分43秒も早く走り切れます。
多少の登りのあるコースだったとしても
「重量」よりも「空力」によるアドバンテージのほうが大きいことが分かりますね。
実験③ ラルプ・デュラズ(距離13.8km、獲得1130m、勾配7.9%)
最後は、登りだけの「ラルプ・デュエズ」コースを
FTP10%の250wで走ったときのタイムシュミレーション。
- Mavic Open Pro(1100g):1時間9分46秒(11.9km/h)(基準)
- FLO 30/30(1624g):-2秒
- FLO 60/DISC(2259g):+23秒
この結果は、一番興味深いですね。
重量にだけ着目すれば、
「Mavic Open Pro(1100g)」と「FLO 30/30」を比較した場合、
「Mavic Open Pro(1100g)」のほうが
3~4×1130/100(獲得標高)×524/1000(重量)=17.8~23.7秒
速くなる計算になります。
ですが、
12km/hという低速ながら、FLOの30mmハイトの空力が働く結果、
重量差を覆し、2秒速く走れてしまうシミュレーション結果が出ています。
坂において、「ホイールの軽さ」のメリットは予想以上に小さく、
その反面で「ホイールの空力」のメリットは予想以上に大きいということです。
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結論
他の多くのスポーツ同様、ロードバイクにおいても
「軽さ」が重要になることは間違いありませんが、
「ホイール重量」に関しては、そうではないようです。
FLOのシミュレーション実験から
多少ホイールが重くなってしまうとしても、
それ以上に「ホイールのエアロ効果」を重視すべきだと分かりました。
ラルプ・デュエズでさえ「軽さ」の優位性があまり無いならば、
もはや超軽量ホイールの存在意義はあるのでしょうか?
Lightweightホイールは、
軽さと剛性から起因する「加速性」を持っていますから、
激しい加速・減速を繰り返すクリテリウムなどでは強い武器になります。
ですが、「ニセコクラシック」は2300m以上の登りがありながらも、
急勾配と呼べるような坂はほとんどなく、
広い道路を走り続けるので、加減速も少ないロードレース。
Lightweightの「軽さ」「加速性」が活かされるタイミングというのは
それほど多くないんじゃないかと思います。
それよりも、平均時速37.27km/hを記録したハイスピードレースの中で、
常に優れた空力性能を発揮し、選手の脚の負担を軽くしたであろう
SACRAホイールのほうが有利であったと考えます。
ホイールにおいて、
分かりやすい「軽さ」が注目されがちですが、
本当に速く走りたいのであれば、
実際の効果が大きい「空力」を何よりも重視すべきなはずです。
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