松木です。
先日紹介したMuc-Off「ナノチューブチェーン」。
ツール優勝に導いたチェーン&潤滑剤Muc-Off『Nanotube Chain』
上の記事でも話しましたが、
Ceramic Speedの「UFOチェーン」(詳しくはこちらの記事)を引き合いに出し、
「4時間後、ナノチューブチェーンのほうが10.6wも摩擦抵抗が小さい」
というデータを公表しています。
あまりに意外な結果に「本当なのかな?」という疑問が浮かんでいましたが、
Ceramic Speedの社員であり、
チェーン潤滑剤の権威でもあるスミス氏がこの度、反論を発表。
「Muc-Offの実験手順(プロトコル)は間違っている」と主張します。
そのPDF文書がこちら。
これを読んでみると、興味深い知見が得られたので、
簡潔にご紹介したいと思います。
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目次
2種類の実験装置
ロードバイクのチェーン摩擦抵抗を測定するためには、
「2種類の装置を用いる必要がある」とスミス氏は言います。
一つ目が、ロードバイクのドライブトレインを模した装置(以下Aとします)。
装置が複雑ゆえに、極めて小さい抵抗である
「チェーン摩擦抵抗」を正確に拾うことが難しいそうです。
メリット:実走行に近い状況下
デメリット:チェーン摩擦抵抗を測定できない
二つ目が、チェーンに一定の高テンションをかけた装置(以下Bとします)。
チェーン摩擦抵抗を検出するためのシンプルな構造です。
メリット:チェーン摩擦抵抗を正確に測定できる
デメリット:”ゆるみ効果”を無視しているため、長時間のチェーン摩擦抵抗の測定には向かない
そして、スミス氏は
「Muc-OffはBの装置だけを使って実験を行い、
”ゆるみ効果”を無視してしまっている」と、欠陥を指摘しています。
”ゆるみ効果”とは一体何のことでしょうか?
”ゆるみ効果”とは
ペダルを踏んでいる最中の
実際のチェーンテンションは上のようになります。
踏む力を受け止めている赤の部分はテンションが高いですが、
それ以外の緑の部分は比較的テンションは低くなります。
また、ペダルを漕ぐのを止めてしまえば、
チェーン全域に渡ってテンションは低くなります。
つまり、実走においては、
装置Bのようにチェーンテンションが常に高い状態ではなく、
テンションが緩む瞬間が往々にしてあるということ。
そして、テンションが緩んだ際に、
チェーンの隙間に潤滑剤の再分配が行われ、
潤滑性能が維持されるというのが”ゆるみ効果”です。
走行中、チェーンと潤滑剤の間に
ミクロレベルと起こっていると予測される変化を
イメージ図にしてみました。
実走では①と②の状態が繰り返されますが、
装置Bだけを使ったMuc-Offの実験手順では、
実走ではありえない③の状態での
チェーン摩擦抵抗を測定してしまっていることになります。
”ゆるみ効果”を裏付けるMuc-Offが隠したデータ
Muc-Offが公表している実験データ。
横軸が時間、縦軸がチェーン摩擦抵抗(下ほど大きい)。
4時間後、「UFOチェーン」のほうが10.6wも大きくなることを示しています。
実はこの実験、同じチェーン、同じ条件での”二日目の結果”が存在していました。
点線が二日目のデータです。
注目は「UFOチェーン」のチェーン摩擦抵抗の回復具合です。
4時間後には14wまで大きくなった摩擦抵抗が、
装置から外し、次の日に同じように装置にかけて開始した瞬間では6w。
チェーン自体に何も手を加えていないにも関わらず、
8wも摩擦抵抗が小さくなっています。
スミス氏は、この現象が起きた原因を
「Muc-Offは装置Bのみで実験を行っており、
一日目の実験終了後、チェーンを装置から外したことで
”ゆるみ効果”が起きたからだ」と言っています。
Muc-Offが二日目のデータを消した理由は分かりませんが、
結果を見ると「不都合な点を隠蔽した」と判断されても仕方ないように思えます。
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Muc-Offの実験手順が間違っている事を証明するスミス氏の実験
Muc-OffのUFOチェーンのディスリを受けて、
すぐにスミス氏が行った反論実験の結果。
パッと見「なんじゃこりゃ?」と言いたくなるグラフです。
横軸は10月10日の時刻、縦軸がチェーン摩擦抵抗(上ほど大きい)。
最初の3時間は、装置AとBのそれぞれのデメリットを補う
スミス氏が提唱するプロトコルに基づいて行われています。
- 実際のロードバイクに近い装置Aで15分間250wの負荷をかける
(先に話した通り、装置Aではチェーン摩擦抵抗を測定できない) - チェーン摩擦抵抗を正確に測定できる装置Bで1分間データを取得する
そして、2によって得られたデータの頂点をつないでいった赤点が、
真のチェーン摩擦抵抗ということになります。
よく考えてますよね(^^)
その後、
「Muc-Offは装置Bのみを使う、誤った実験を行った」
という仮説を証明するため、装置Bで1時間データを取り続けました。
その結果、Muc-Offが示したようなチェーン摩擦抵抗の漸増が見られ、
やはりMuc-Offの実験は、装置Bだけを用いた可能性が高いことが分かります。
最後には、”ゆるみ効果”の存在を証明するために
10分間装置Aにかけた後、装置Bで1分間測定。
予想通り、チェーン摩擦抵抗は回復しています。
スミス氏の実験プロトコルによるチェーン摩擦抵抗比較
Muc-Off社とCeramicSpeed社スミス氏の言い争い。
互いに実験データを持ち出してはいますが、
スミス氏のほうが、明らかに理が強いと思いました。
最後に、スミス氏の装置A、B両方を用いたプロトコル(詳しくはこちら)による
各種チェーン摩擦抵抗の実験データを紹介しておきます。
- 箱出し状態では、①カンパ②シマノ③スラム
- 特殊加工チェーンは、①「UFOチェーン」②「ICEチェーン」③「ナノチューブチェーン」(NTOC)
- Wippermann(ウィッパーマン)の「CONNEX 11SX」は、50km走行後から優秀
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