松木です。
前回、タイヤの「転がり抵抗」の主な要因が、
「タイヤと地面との摩擦による抵抗」ではなく、
タイヤが地面と接地し、変形した際に発生する熱によるエネルギー損失、
つまり「ヒステリシスロス(内部損失)」だという話をしました。
そして、さらに最後には、
「転がり抵抗」=「ヒステリシスロス」+「インピーダンス」
として、「インピーダンス」という要因にも触れて終わりました。
今回は、この「インピーダンス」にフォーカスした話。
【タイヤ熟考Ver3の記事】
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目次
インピーダンスの概要
「インピーダンス」と聞き慣れない用語を使っていますが、
実際は、そこまで難しい概念ではありません。
【左】適切に近い空気圧で5mmの突起を踏んだ場合、
タイヤが4mm吸収し、ホイール/車体/ライダーが1mm上下。
【右】カンカンの空気圧で5mmの突起を踏んだ場合、
タイヤは全く吸収せずに、ホイール/車体/ライダーが5mm上下。
後者の場合、タイヤは全く変形しないので、
「ヒステリシスロス」は発生しませんが、
その代わりにホイール/車体/ライダーが、5mmの衝撃を受け止めます。
【左】「ヒステリシスロス」が発生するとは言え、
タイヤは「空気圧」「タイヤゴムの弾性」がバネのように働くため、
エネルギーロスは少なめ。
「運動エネルギー⇔タイヤの変形エネルギー⇒ヒステリシスロス」
【右】対して、ホイール/車体/ライダーにバネのような特性は無く、
路面からの振動を”サスペンション”のように吸収して飲み込んでしまうため、
エネルギーロスは多め(極端な話、フレームにMTBのようなサスが付いていたら全然進まない)。
「運動エネルギー⇒車体/ライダーでのエネルギーロス」
この車体/ライダーにおいて失われてしまう
エネルギーが「インピーダンス」の正体です。
以下、ポンプメーカーSILCAが公表している
「インピーダンス」に関する記事を紹介します。
そのままという訳ではなく、分かりやすいように
一部省略&追加、意訳、言い換え等をしています。
SILCAのインピーダンスに関する記事
インピーダンスとは
Crr(Coefficient of Rolling Resistance:転がり抵抗係数)は
タイヤの内部損失(ヒステリシスロス)ですが、
「インピーダンス」というのは、あなたの身体全身を通して感じる振動吸収力です。
以前は「サスペンションロス」または「伝達ロス」と呼ばれていたもので、
これは、”高すぎる空気圧”、”細いタイヤ”、”荒れた路面”などが原因で、
タイヤがうまく振動吸収できない場合に発生します。
空気圧とヒステリシスロスの関係
「Crr(転がり抵抗係数)」や「転がり抵抗」について話す時、
一般的には、単にタイヤの「ヒステリシスロス」を指しています。
タイヤに負荷がかかって変形した際、
タイヤの「空気ばね」はほぼ100%の効率を発揮してくれますが(運動E⇔変形E)、
「ケーシング」(タイヤの”骨格”となる繊維)は、そうではありません。
ケーシングが変形した際には”熱”(ヒステリシスロス)が発生します。
(金属の一か所をグネグネ曲げると、その部分が熱くなるのと同じ現象)
(ドラムを用いた実験のイメージ。ただし、実際はドラム表面にこのようなパターンは無い。)
上のグラフは、ドラム上でタイヤを転がした測定結果です。
空気圧が増加するにつれて
「転がり抵抗」(正確にはCrr)が減少していることに注目してください。
これは、高圧ほどタイヤは変形しにくくなり、
「ヒステリシスロス」の発生量が少なくなるためです。
このようなデータは長年存在していて、
これのせいで「空気圧は高ければ高いほど速い」と
長い間信じられてきました。
ですが、このデータは、
「路面の粗さ」そして「人体の非効率性」を考慮しておらず、
したがって不完全です。
アスファルトにおける転がり抵抗
トム・アンハルトは、
アスファルトにおける「転がり抵抗」を調べる実験を行いました。
「実験室での滑らかなドラム」と「現実世界のアスファルト」。
両データは、低い空気圧においては一致したものの、
高い空気圧では大きく乖離してしまいました。
この乖離は、タイヤへ空気を入れ過ぎると、
「インピーダンス」による大きなロスが生まれるからです。
興味深いことに、このテストは、
比較的滑らかなアスファルト上で行われました。
もっと状態の悪い、荒れたアスファルトであれば、
どういった結果になるのかという疑問が湧いてきます。
「転がり抵抗」が最も小さくなる空気圧を
「ブレイクポイント」(以下BP)と呼ぶことにすると、
BPよりも空気圧が低ければ、
「インピーダンス」よりも「ヒステリシスロス」の影響が大きく、
BPよりも空気圧が高ければ、
逆に「ヒステリシスロス」より「インピーダンス」の影響が大きくなる
ということを、このグラフは示しています。
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SILCAが実施した大規模なテスト
2014年の夏、ポンプメーカーSILCAのチームは、
一か月間、900メートルの道路を完全に閉鎖する
「舗装プロジェクト」を発表しました。
これは、道路を一度完全に削り取り、
その後再舗装する過程で現れる「状態の異なる3種類の路面」においてCrrを測定し、
現実世界における「転がり抵抗」を明らかにしようするプロジェクトです。
実験条件
- Cervelo『P4』(空気抵抗の影響を減らせる)
- エアロポジション(前後輪およそ50%ずつの荷重がかかる)
- Zipp『404 Firecrest』+コンチネンタル『4000s Ⅱ』25c
- 前後タイヤとも同じ空気圧
- ライダーと車体の合計が190ポンド(≒86.2kgと日本人基準よりは重め)になるように、ボトルの水量で調整
実験した路面
こちらが最初の路面の状態。
1インチ毎に8mmの均一なピークを持つコンクリートです。
その後、「粗めのアスファルト」を得て、
最終的には下の「綺麗なアスファルト」に仕上がりました。
結果と考察
- 「綺麗なアスファルト」であっても、ドラムに比べれば「転がり抵抗」は大きい
- 「綺麗なアスファルト」であっても、「インピーダンス」の影響をモロに受ける
- 「綺麗なアスファルト」のBPは110psi(≒7.6bar)で、これは予想に比較的近い印象
- 「粗めのアスファルト」のBPは100psi(≒6.9bar)
- 「8mmのピークを持つコンクリート」のBPは60psi(≒4.1bar)と、相当に低い
- BPを越えると、Crrは急激に悪化するため、BPからズレるならば、低いほうにズレた方がマシ(「乗り心地」「グリップ力」の観点からも)。
追実験とその結果
同じ場所にて、2年後に同条件にてテストを実施。
その結果、2年後の方が「転がり抵抗」は小さくなりました。
これは、完成直後(正確には4日目)には、まだ柔らかめだったアスファルトが、
時間経過、そして何度も踏みしめられることで、硬くなったためだと考えられます。
もう一つは、
「分厚くて硬いケーシング」「薄くてしなやかケーシング」
という、2種類のタイヤでの比較実験です。
薄くてしなやかなケーシングを持つタイヤの方が、
「ヒステリシスロス」「インピーダンス」いずれも抑えられ、
どの空気圧においても「転がり抵抗」は、より小さくなりました。
また、Crrのカーブは緩やかであり、ブレイクポイントから外れた際の
「転がり抵抗」の増加量は少なく、その意味で空気圧の許容範囲は広いと言えます。
次回のタイヤ熟考Ver3では、
「具体的に何気圧に設定すべきか?」
という肝心要(かなめ)な問題について考えたいと思います。
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たいへん興味深い記事、ありがとうございます!
経験上、なめらかな路面でのヒルクライムでは「細いタイヤ+高空気圧」が速いのは体感できていたのですが…。荒れた路面をハイスピードで通過するような場面では「振動ばかり大きくなって前に進まんなぁ」感はやはりデータでも証明されてたのですね!
何10kgの「重り」を振動させるのにエネルギーを喰われてしまっては、前にも進みませんわなぁ…アルミバイクにのる身としてはダイレクトに感じられます(^^;)
転がり抵抗はクリンチャーの方が低いけれど、インピーダンスはチューブラーの方が低いのかな? そんな印象がします。
実際の走行ではインピーダンスの方が重要そうですね。コンクリート路面の走りやすさがいい例ですよね。
空気圧高めだったのでそんな印象だったのでしょうか??
これからは低くしてみます!
低血糖高血圧Mさん、はじめまして(^^)
確かに「クリンチャー、チューブラーの違い」など、
インピーダンスに関するデータはもっと欲しいですね!
今までは7気圧強まで入れていたのですが、
インピーダンスの影響を知ってからは、0.2気圧ほど落としました。
常識とされる空気圧より低めでも、
インピーダンスの知識を持っていれば「転がり抵抗の悪化」を心配せずに乗れますし、
なにより「荒れた路面」「コーナー」での安定感が増すのが好感触です(^^♪