この記事の所要時間: 328

 

松木です。

 

「転がり抵抗」の正体

前回、タイヤの「転がり抵抗」の主な要因が、
「タイヤと地面との摩擦による抵抗」ではなく、

タイヤが地面と接地し、変形した際に発生する熱によるエネルギー損失、
つまり「ヒステリシスロス(内部損失)」だという話をしました。

 

タイヤ熟考Ver1「転がり抵抗」≠「タイヤと地面との摩擦による抵抗」
 松木です。 何となく使っている「転がり抵抗」という言葉。 冷静に考えると、上図の①のように地面とタイヤはこすれている訳ではありません。(ホイール...

 

そして、さらに最後には、

「転がり抵抗」=「ヒステリシスロス」+「インピーダンス」

として、「インピーダンス」という要因にも触れて終わりました。

 

今回は、この「インピーダンス」にフォーカスした話。

 

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インピーダンスの概要

「インピーダンス」と聞き慣れない用語を使っていますが、
実際は、そこまで難しい概念ではありません。

 

タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス

【左】適切に近い空気圧で5mmの突起を踏んだ場合、
タイヤが4mm吸収し、ホイール/車体/ライダーが1mm上下。

【右】カンカンの空気圧で5mmの突起を踏んだ場合、
タイヤは全く吸収せずに、ホイール/車体/ライダーが5mm上下。

 

後者の場合、タイヤは全く変形しないので、
「ヒステリシスロス」は発生しませんが、

その代わりにホイール/車体/ライダーが、5mmの衝撃を受け止めます。

 

タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス

【左】「ヒステリシスロス」が発生するとは言え、
タイヤは「空気圧」「タイヤゴムの弾性」がバネのように働くため、
エネルギーロスは少なめ。

 

「運動エネルギータイヤの変形エネルギー⇒ヒステリシスロス」

 

【右】対して、ホイール/車体/ライダーにバネのような特性は無く、
路面からの振動を”サスペンション”のように吸収して飲み込んでしまうため、
エネルギーロスは多め(極端な話、フレームにMTBのようなサスが付いていたら全然進まない)。

「運動エネルギー車体/ライダーでのエネルギーロス

 

 

この車体/ライダーにおいて失われてしまう
エネルギーが「インピーダンス」の正体です。

 

 

以下、ポンプメーカーSILCAが公表している
「インピーダンス」に関する記事を紹介します。

 

そのままという訳ではなく、分かりやすいように
一部省略&追加、意訳、言い換え等をしています。

SILCAのインピーダンスに関する記事

インピーダンスとは

Crr(Coefficient of Rolling Resistance:転がり抵抗係数)は
タイヤの内部損失(ヒステリシスロス)ですが、

「インピーダンス」というのは、あなたの身体全身を通して感じる振動吸収力です。

 

以前は「サスペンションロス」または「伝達ロス」と呼ばれていたもので、
これは、”高すぎる空気圧”、”細いタイヤ”、”荒れた路面”などが原因で、
タイヤがうまく振動吸収できない場合に発生します。

空気圧とヒステリシスロスの関係

「Crr(転がり抵抗係数)」や「転がり抵抗」について話す時、
一般的には、単にタイヤの「ヒステリシスロス」を指しています。

 

タイヤに負荷がかかって変形した際、
タイヤの「空気ばね」はほぼ100%の効率を発揮してくれますが(運動E⇔変形E)、
「ケーシング」(タイヤの”骨格”となる繊維)は、そうではありません。

 

「転がり抵抗」の正体

ケーシングが変形した際には”熱”(ヒステリシスロス)が発生します。
(金属の一か所をグネグネ曲げると、その部分が熱くなるのと同じ現象)

 

タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス

タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス
(ドラムを用いた実験のイメージ。ただし、実際はドラム表面にこのようなパターンは無い。)

上のグラフは、ドラム上でタイヤを転がした測定結果です。

 

空気圧が増加するにつれて
「転がり抵抗」(正確にはCrr)が減少していることに注目してください。

 

これは、高圧ほどタイヤは変形しにくくなり、
「ヒステリシスロス」の発生量が少なくなるためです。

 

このようなデータは長年存在していて、
これのせいで「空気圧は高ければ高いほど速い」と
長い間信じられてきました。

 

ですが、このデータは、
「路面の粗さ」そして「人体の非効率性」を考慮しておらず、
したがって不完全です。

アスファルトにおける転がり抵抗

トム・アンハルトは、
アスファルトにおける「転がり抵抗」を調べる実験を行いました。

 

タイヤ熟考Ver2「転がり抵抗」インピーダンス

「実験室での滑らかなドラム」と「現実世界のアスファルト」。

 

両データは、低い空気圧においては一致したものの、
高い空気圧では大きく乖離してしまいました。

 

この乖離は、タイヤへ空気を入れ過ぎると、
「インピーダンス」による大きなロスが生まれるからです。

 

興味深いことに、このテストは、
比較的滑らかなアスファルト上で行われました。

 

もっと状態の悪い、荒れたアスファルトであれば、
どういった結果になるのかという疑問が湧いてきます。

 

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」

「転がり抵抗」が最も小さくなる空気圧を
「ブレイクポイント」(以下BP)と呼ぶことにすると、

 

BPよりも空気圧が低ければ、
「インピーダンス」よりも「ヒステリシスロス」の影響が大きく、

BPよりも空気圧が高ければ、
逆に「ヒステリシスロス」より「インピーダンス」の影響が大きくなる

 

ということを、このグラフは示しています。

 

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SILCAが実施した大規模なテスト

2014年の夏、ポンプメーカーSILCAのチームは、
一か月間、900メートルの道路を完全に閉鎖する
「舗装プロジェクト」を発表しました。

 

これは、道路を一度完全に削り取り、
その後再舗装する過程で現れる「状態の異なる3種類の路面」においてCrrを測定し、
現実世界における「転がり抵抗」を明らかにしようするプロジェクトです。

実験条件

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト
(※イメージ図)

  • Cervelo『P4』(空気抵抗の影響を減らせる)
  • エアロポジション(前後輪およそ50%ずつの荷重がかかる)
  • Zipp『404 Firecrest』+コンチネンタル『4000s Ⅱ』25c
  • 前後タイヤとも同じ空気圧
  • ライダーと車体の合計が190ポンド(≒86.2kgと日本人基準よりは重め)になるように、ボトルの水量で調整

実験した路面

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト

こちらが最初の路面の状態。

1インチ毎に8mmの均一なピークを持つコンクリートです。

 

その後、「粗めのアスファルト」を得て、
最終的には下の「綺麗なアスファルト」に仕上がりました。

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト

結果と考察

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト

 

  • 「綺麗なアスファルト」であっても、ドラムに比べれば「転がり抵抗」は大きい
  • 「綺麗なアスファルト」であっても、「インピーダンス」の影響をモロに受ける
  • 「綺麗なアスファルト」のBPは110psi(≒7.6bar)で、これは予想に比較的近い印象
  • 「粗めのアスファルト」のBPは100psi(≒6.9bar)
  • 「8mmのピークを持つコンクリート」のBPは60psi(≒4.1bar)と、相当に低い
  • BPを越えると、Crrは急激に悪化するため、BPからズレるならば、低いほうにズレた方がマシ(「乗り心地」「グリップ力」の観点からも)。

追実験とその結果

同じ場所にて、2年後に同条件にてテストを実施。

 

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト

その結果、2年後の方が「転がり抵抗」は小さくなりました。

 

これは、完成直後(正確には4日目)には、まだ柔らかめだったアスファルトが、
時間経過、そして何度も踏みしめられることで、硬くなったためだと考えられます。

 

 

もう一つは、
「分厚くて硬いケーシング」「薄くてしなやかケーシング」
という、2種類のタイヤでの比較実験です。

 

「転がり抵抗」=「ケーシングロス」+「インピーダンスロス」 テスト

薄くてしなやかなケーシングを持つタイヤの方が、
「ヒステリシスロス」「インピーダンス」いずれも抑えられ、
どの空気圧においても「転がり抵抗」は、より小さくなりました。

 

また、Crrのカーブは緩やかであり、ブレイクポイントから外れた際の
「転がり抵抗」の増加量は少なく、その意味で空気圧の許容範囲は広いと言えます。

 

 

次回のタイヤ熟考Ver3では、
「具体的に何気圧に設定すべきか?」
という肝心要(かなめ)な問題について考えたいと思います。

 

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