松木です。
Cycling Weeklyの好きなシリーズ。
ベロドロームにおける実走エアロテスト。
これまで「フレーム」「スキンスーツ」の実験を取り上げてきましたが、
今回の実験対象は、7種類のヘルメットです。
Specialized『S-Works Evade Ⅱ』が無い(用意できなかった)など、
若干外してしまっている感のあるラインナップなものの、
結果自体は、非常に興味深いものになっています。
前置きが長くても仕方ないので、早速見ていきましょう(^^)
スポンサーリンク
目次
実験方法
実験場所は、イングランドの「ダービーベロドローム」1周250m。
実験の協力者は、チャーリー・タンフィールド。
どこにでもいる只の自転車好きではなく、
トラック競技パシュートの世界チャンピオンです。
つまり、ベロドロームにおけるペースコントロールは”超一流”。
そんな彼が、全く同じドロップポジションにて45km/h走行。
その際に必要なパワーなどを測定します。
そうやって得られたデータは
「Watt Shop」のDANさんによって専用ソフトウェアに入力され、
7種類すべてのヘルメットで「Aero Watt」を算出していきます。
ちなみに「Aero Watt」というのは、
様々な抵抗から「空気抵抗」だけを抽出した値です。
「Aero Watt」=「〇〇km/h走行に必要な出力」-「転がり抵抗」-「駆動抵抗」
以上が、実験方法。
「費用やベロドローム使用時間などの制限がある中で、
なるべくベストだと思える方法を取ったつもりだ」と話します。
実験に用いられる7種類のヘルメット
【No.1】LIMAR(リマール)『535 Superlight』
参考価格:£19.99(≒3,000円)
公表重量:Mサイズ250g、Lサイズ270g
何の変哲もない安物ヘルメットで、
他の本命6種類と比較するための”ベースライン”として用意。
ベロドロームからの借り物だそうです(笑)
【No.2】GIRO『Synthe(シンセ) MIPS』
価格:36,720円
実測重量:Mサイズ268g
発売時期:2014年
今では当たり前に見られる
「冷却性能」と「エアロ」を両立したハイブリッドタイプ。
『Synthe』は、ルックスが良く、カラーリングも豊富なので、
高価な割には人気があるヘルメットです。
【No.3】GIRO『Vanquish(ヴァンキッシュ) MIPS』バイザー無し
価格:38,880円
公表重量:Mサイズ305g+シールド50g(実測368g)
発売時期:2017年末
多くの人が、バイザーを装着せずに、
好みのサングラスを掛けると考えられるため、
”バイザー無し”の条件にて、テストを行います。
【GIROが公表している空力データ】
※『Evade』は旧作
※速度に換算すると、250wで40km/h前後、400wで47~48km/h
『Vanquish』はバイザー無しでさえ
『Evade』『Manta』『Ballista』に勝っており、
本実験一番の目玉と言えるヘルメットでしょう。
ところで、「何も被らない」が一番速い結果が出ていたり、
同社の『Synthe』が”ベベ”になってしまっているのは面白いですね(^^)
(※48km/h走行時、『Synthe』に比べて『Vanquish』バイザー無しは-5w)
【GIROが公表している冷却効率データ】
また、『Vanquish』は、ガチガチのエアロヘルメットにも見えますが、
その「冷却性能」は、『Synthe』にも引けを取っていません。
【No.4】KASK『Infinity(インフィニティ)』シールドを下げた状態
価格:31,860円
実測重量:Mサイズ292g
発売時期:2013年
シールドが上下にスライドするギミックを備えたヘルメット。
エアロ効果を最大限発揮させるため、
このシールドは”下げた状態”にしておきます。
2014年にドイツの機関が実施した風洞実験ですが、
『Evade』やTTヘルメットを上回った結果が出ています。
詳しくは、下のブログ記事で紹介してくれています。
7種類の中では最古のモデルではあるものの、期待値は高め。
【No.5】LAZER『Bullet』シールドを下げた状態
参考価格:£219(≒32,500円)
実測重量:Sサイズ318g
発売時期:2017年前半
LAZERヘルメットは、シマノが国内代理店なのですが、
この『Bullet』は輸入しておらず、日本での知名度は皆無。
ですが、ZWIFTをプレイしている方には馴染みがあるでしょうw
KASK『Infinity』同様、
前方のシールドを上下にスライドさせて、
「冷却性能」「エアロ」を調整できる仕組みなのですが、
シールドを上げることで、
赤丸の3箇所から空気が流入するシステムとなっています。
逆に、シールドを下げると、この3つの穴は塞がります。
サイドにもベンチレーション(空気孔)が配置されており、
『Infinity』よりも積極的に頭を冷やす設計なのが特徴的です。
上の『Z1』と比較して、
45km/hで-7w、スプリント時には-10wの「空力性能」を持つ反面で、
その複雑な構造ゆえに、7種類の中で最重量(Sサイズ318g)。
【No.6】POC『Ventral SPIN』
価格:41,040円
実測重量:Sサイズ264g
発売時期:2018年3月頃
POCは北欧スウェーデンのメーカー。
ウィンタースポーツの分野にも強く、平昌オリンピックで
POCのヘルメットやゴーグルを使用する選手も見受けられました。
ロードバイクでは「EFエデュケーションファースト」に供給していますね。
ただ、一般ライダーの間での使用率は低めでしょうか?
『Ventral』ヘルメットは、
水の出るホースをつまむと勢い良く水が飛び出す
「ベンチュリー効果」をヘルメット内部で応用(しているらしいw)。
この「ベンチュリー効果」により、
高い「冷却性能」と「エアロ性能」の両立を狙ったモデルです。
【No.7】MET『Trenta(トレンタ) 3K Carbon』
価格:39,312円
実測重量:Mサイズ228g
発売時期:2018年3月
METのエアロロードヘルメットと言えば、
抜群の「軽さ」「空力」を誇る『Manta』のイメージが強いですが、
最新の『Trenta』は、
POC『Ventral』を同じく「ベンチュリー効果」を利用することで、
『Manta』以上の「空力」「通気性」を実現しているモデルです。
詳しくは、下のシクロワイアードのインプレ記事をどうぞ。
スポンサーリンク
実験結果と考察
以下、Cycling Weeklyの見解を要約。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
驚いたことに、Limar『535 Superlight』が3位でした。
安いヘルメットは、シンプルでツルッとしている上に、
ベンチレーションが少ない物が多いです。
この事実が、思いがけず「エアロ」に繋がっているのでしょう。
また、
- アゴ紐の素材、着け心地
- ヘルメットのフィット感
- 後頭部のアジャスターの調整しやすさ
- 安全性
などのトータルによって価格が決まっているのであり、
「高いほどエアロ」だとは限りません。
KASK『Infinity』が、最下位だったことも少しばかり驚きました。
シールドは”下げた状態”であったにも関わらずです。
おそらく『Infinity』は、かなり古い(2013年発売)ヘルメットであり、
空力学的に考えて、もはや遅れたデザインなのだと考えられます。
とは言え、先日発売したばかりの
POCのエアロロードヘルメット『Ventral』が6位。
つまりは「最新」=「エアロ」とも一概には言い切れません。
難しい……
MET『Trenta』が堂々の1位。
そして、僅差(+0.4~0.7w)でGIRO『Vanquish』が2位。
ですが、『Trenta』のほうがベンチレーションが多くて涼しそうですし、
重量を比較しても『Trenta』のほうが遥かに軽い(Mサイズ228g)利点があります。
『Venquish』は横幅が広い分だけ、
空力的に不利になってしまっている気がします。
ただ、専用バイザーを取り付ければ、
『Trenta』との結果は逆転するはずです。
また、「48km/h走行で『Synthe』より-5w」という
メーカーの公表データよりは良い結果が出ていますね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以上が、Cycling Weeklyの考察でした。
先に紹介した風洞実験では『Infinity』はトップでしたから、
この実験で最下位となったのは、かなり意外……(^^;
ヘルメットの風洞実験データは所々で目にしますが、
同じヘルメット同士の比較であったとしても、
それぞれの実験によって順位が入れ替わっていたりします。
ですから、ヘルメットは「実験条件」、具体的には
「実験速度」「ヘルメットの取り付け角度」「ライダーの頭の形・髪型」
などによって空力データが大きく左右されるのではないかと思っています。
今回の実験結果を受けて、他に感じたことと言えば、
「ツルッとした外観」「メーカーの謳い文句」はアテにならない
という事でしょうか(笑)
別の最新モデルも交えた”次回”に期待しましょう。
スポンサーリンク