松木です。
4月16日に55.089kmという驚異的なアワーレコードを成し遂げた
Victor Campenaerts(ヴィクトール・カンペナールツ)
「機材編」「ウェア・装備編」と見てきましたが、
今回はアワーレコード当日までの「準備編」です。
成功のために彼が積み重ねてきた
「4ヶ月近い準備」「高地トレーニング」は、
一体どんなものだったのでしょうか?
【参考にした記事】
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目次
アワーレコードの会場にメキシコを選んだ理由
アワーレコードに挑戦するトラックは、
ルールに適合しさえすれば何処でも構いません。
Campenaertsが選んだのは……
メキシコ「アグアスカリエンテス」ベロドローム。
その海抜高度は1880m。
空気が薄い、つまりは空気抵抗も小さいことから、
アワーレコードの挑戦地として人気の地です。
では、どれほどのアドバンテージが得られるのか?
「イエロー(「空気が薄い=空気抵抗が小さい」によるパワーUP率)」
-「オレンジ(「空気が薄い=身体能力が落ちる」によるパワーDOWN率)」
=「ブルー(正味のパワーUP率)」
このグラフによれば、
高度2750mが「ブルー」のピークとなり、
その「正味のパワーUP率」はなんと約+13%。
アグアスカリエンテスのベロドロームの高度1880mでは870mほど足らず、
「パワーアップ率」は約+11.5%と、少々下がってしまうのですが、
アワーレコードのルールに適合する中ではBESTだと考えられていて、
高度0mと比べ、距離にして1500mものアドバンテージが得られるのだそう。
CampenaertsがWigginsを上回った距離は563mでした。
つまり、会場選択を妥協していたならば、
記録更新は叶わなかったかもしれないという事です。
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アワーレコード達成までの100日間
1/2~3/3:ナミビアでのトレーニングキャンプ
年が明けてすぐ。
南アフリカのナミビアにて2か月間のキャンプを実施。
高度1730m、気温35℃。
メキシコ「アグアスカリエンテス」の高度1880m、気温30℃に近く、
「高地順応」「高温順応」が同時に実施できるナミビアは、
アワーレコード挑戦に向けた最高のトレーニング環境だと考えられました。
(血液量、赤血球が増える結果、筋肉へのO2供給能力が向上する)
アグアスカリエンテスの酸素濃度は、
高度0m地点の79%しかありません。
先ほど「1500mのアドバンテージが得られる」とは言ったものの、
あくまで「低酸素下でも本来に近いパフォーマンスを発揮できたら」の話。
そのために十二分な「高地順応」を行うことは欠かせませんでした。
3/4~19:休暇⇒レース「ティレーノ〜アドリアティコ」
キャンプを終えて3月4日にベルギーへと帰宅。
彼女と自由な休暇を過ごします。
この間も体調管理に配慮していたのはもちろん、
身体の「高地順応」が解けないようにするため、
必要に応じて低酸素ルームで睡眠したのだそう。
ちなみに「低酸素ルーム」と明記されているので、
ちょっとした施設のような、大掛かりな部屋なのだろうと思うのですが、
昨今のご時世、「低酸素テント」なら誰でも購入することが可能(こちら)
30万円弱と、高級ホイールぐらいですね~(^^)
以前に紹介した神Zwifter、Vintinさんも持っているそうですよ(笑)
閑話休題。
1週間弱の束の間の休息を取ったCampenaertsは、
3月11日からイタリアの7ステージレース「ティレーノ〜アドリアティコ」に参加。
2018年の世界選手権TTの勝者ローハン・デニス、
同2位トム・ドュムランの2人を抑えてのステージ優勝。
ナミビアでのトレーニングキャンプの効果を実感すると共に、
1ヶ月後に控えたアワーレコードに良い弾みを付けました。
3/20~4/15(前日):リフレッシュ⇒アワーレコード挑戦の地メキシコへ
「ティレーノ〜アドリアティコ」の終えてベルギーへと帰還。
家族や彼女、友人たちと過ごすリフレッシュ週。
それでも、
- 高度2400mに相当する低酸素ルーム内での睡眠
- ルーベのベロドロームを使った走行テスト
- 管理された気候におけるトレーニング
- 乳酸値測定
など、アワーレコードに向けた準備は怠らず。
1週間後の3月27日、メキシコへと出発。
いち早く時差ボケを解消すべく
渡航中の24時間は起き続けて、
メキシコでの最初の夜をグッスリ眠れるように。
そして、メキシコにいる間も基本的には
高度3000mに相当する低酸素ルームで寝るようにしていたそうな。
アワーレコード当日までの20日間。
アグアスカリエンテスの時間・高度・気温に身体を適応させつつ、
会場となるベロドロームにて、
「最短のライン取り練習」「使用ギアの決定」「本番を模したコーチKevinとの連携」など。
細かい所まで一つ一つ最適化していくCampenaerts一同。
「食事管理」も徹底。
練習量から必要な摂取カロリーを割り出し、
それに応じた食事をシェフが用意してくれました。
言わずもがなPFCバランスも完璧です(^^)
そんな風に着々とアワーレコードへの準備を進めていき、
残り3~5日からは「リカバリー」へと切り替え。
トレーニングは、鈍らない程度に身体に刺激を入れるのみ。
アワーレコード3日前となる4月13日の朝5時の様子。
ブルーライトを目に当てながらローラーを回し、身体を起こしています。
睡眠リズムは体内のメラトニン量と密接に関係しているのですが、
ブルーライトは、そのメラトニン量を調整する役割を果たします。
アワーレコードのスタートは午前11時。
ですが、ホルモン的な観点からすると、
午後に最高のパフォーマンスを発揮できるのだそう。
となると、11時というのはスタートには少し早い時間帯……
そこで、「11時を午後」だと身体に錯覚させようと
19時にベッドに入って20時~4時半睡眠という”前倒し”の生活リズムに。
そのリズムを身体に確立すべく、
17時以降はブルーライトカット眼鏡(メラトニン量⤴)、
逆に、朝にはブルーライト照射眼鏡(メラトニン量⤵)。
以上の100日間に及んだ緻密で入念な準備の結果、
「自信に満ち溢れていて、メンタルは落ち着いている。
前日でもリラックスしていて、いつも通りに眠れたよ!」
最終回『本番編』へと続きます。
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