松木です。
「1時間でどれだけ前へと進めるか?」
そのシンプルな疑問に答えを見出すべく、
146年前の1873年(ジェームズ・ムーアの23.331km)より挑み続けてきた人類は、
(UCI公認は1893年アンリ・デグランジュの35.325km)
Victor Campenaerts(ヴィクトール・カンペナールツ)によって、ついに55kmを突破!
Wigginsの記録54.526kmを563m上回る55.089kmに到達しました。
「実施環境」「トレーニング」「機材」「ピーキング」「ペース配分」
そういった一つ一つの要素を、
極限まで高めなければ成し得ないアワーレコード。
”速さのエッセンス”が詰まった競技であり、
深く検証する価値は大いにあると考えます。
そこで「機材編」「ウェア・装備編」「準備編」「本番編」の4回に分け、
アワーレコードを達成できた理由に迫ってみることにしましょう。
今回は「機材編」です。
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目次
55kmの壁を打ち破った人類最速マシン7.6kg
フレーム:カスタムメイドRIDLEY『Arena TT』
エアロバー:フルカスタムメイド
ホイール:Campagnolo『GHIBLI(ギブリ)』
タイヤ:Vittoria『Pista Evo CL』22c
クランク:Campagnolo『Super Record』
チェーンリング:特注アルミ製60T
スプロケット:特注製14T
チェーン:ロード用
BB:C-BEARセラミックベアリング
サドル:ISM『PS2.0』
ペダル:LOOK『Keo Blade Carbon』20Nm
パワーメーター:SRM(クランク型)
サイコン:SRM-PC8(走行中の確認は禁止のためサドル下に装着)
フレーム:RIDLEY『Arena TT』
エアロバーとトップチューブに記された「60」の数字。
その他、シートチューブにも「時計⇒アワーレコード」を連想させるペイントの数々。
彼のあだ名である「VOCSNOR」やトレードマークの「ヒゲ」も。
フレームは、既製品のRIDLEYのトラック用『Arena TT』
ただし、CampenaertsのTTポジションに合わせたオリジナルジオメトリーです。
フレームがオーダーメイドとは凄い……
見えづらいですが『F-Surface Plus』と呼ばれる溝(上図は『Noah Fast』)を、
ヘッドチューブ、フォーク、ダウンチューブ、シートポストの4ヵ所に配置。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、
あえて空気の乱流を発生させることで、空気抵抗を削減することが出来ます↓
続いてエアロバー。
エイリアンチックな有機形状は、Campenaertsの両腕から型取られています。
そのため、肘~手首までを包み込むようにフィットし、エアロ効果は抜群。
ブルホーン部分のハンドル幅は必要最低の33cmしかありません。
これは、スタート直後の加速時にしか握らず、
その後は空気抵抗の邪魔にしかならないパーツであるため。
実際握っていたのはちょうどトラック1周、スタートから25秒間だけでした。
足回り:Campagnolo『GHIBLI』+Vittoria『Pista Evo CL』
ホイールはCampagnolo『GHIBLI』
もちろんCULTベアリング仕様です。
公表重量は、フロント800g/リア825g。
国内定価だとほぼ90万…Σ(゚Д゚)!?
タイヤはVittoria『Pista Evo CL』22c(公表150g)
なぜか新型コンパウンド「グラフェン2.0」を使った『Pista Speed』は未選択。
タイヤで妥協する事など絶対あり得ません。
最新の『Pista Speed』よりも『Pista Evo CL』の方が、
実験的に速いという結果が出たのでしょうかね。。。
※追記:下のサイトによれば『Pista Evo CS』21cが最速となっており、
それに近い『Pista Evo CL』22cも「転がり抵抗」が低いと推測されます。
前レコードホルダーであるWigginsの挑戦時に用意された
スペシャルカラー”ゴールド”をCampenaertsも使用。
空気圧は、最低空気圧である10barに設定。
このタイヤは15barまで充填可能なんですが、
MAXまで入れないのは「インピーダンス」の悪影響により
逆に転がり抵抗が大きくなるからだと考えるのが妥当です↓
駆動系パーツ
チェーンリングとスプロケットはいずれも特注品。
万全を期して、6枚ずつ
チェーンリング58~63T、スプロケ13~18Tを準備しましたが、
最終的に本番で選択されたのは60-14T(ギア比4.285)
Wigginsの58-14T(ギア比4.142)よりも重いギアにて挑戦。
これはチェーンリング53Tであった場合、
スプロケ12T(ギア比4.416)と13T(ギア比4.076)の間の重さに相当。
……およそ人間が平地で使うギアではありませんよね(^^;
チェーンはトラック用ではなく、摩擦抵抗の少ないロード用をチョイス。
これがアワーレコードにおけるセオリー。
また、新品状態のDura-Aceチェーンを最適化することで、
最大-5wの削減が見込めるとの実験結果もありますから、
何らかの特殊コーティングを施しているのは間違いありません。
Wigginsのアワーレコード時のエピソードですが、
チェーンを提供した潤滑剤メーカーMuc-Offは、
「検査機器の製作」「1時間低抵抗を維持する潤滑剤の開発」のために
およそ100万円もの研究費を投じたのだという。
そこまで行う価値が、チェーン潤滑剤にはあるという事でしょう。
ちなみに自分が使っているのはCeramic Speed『UFO Drip』↓
セラミックスピード UFO Drip 180ml チェーンコーティング剤
最後にセラミックBB。
Campenaertsが所属するUCIチーム
「ロット・ソウダル」が供給を受けているベルギー産のC-BEAR。
国内ではJPスポーツが取り扱っています。
愛らしい熊のマスコットを侮るなかれ!
自腹購入するプロチームの存在していることから、
その「信頼性」と「品質の高さ」は折り紙付き。
次回「ウェア・装備編」へと続きます。
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