松木です。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

4月16日に55.089kmという驚異的なアワーレコードを成し遂げた
Victor Campenaerts(ヴィクトール・カンペナールツ)

 

 松木です。 https://youtu.be/ICk3aID5xLs「1時間でどれだけ前へと進めるか?」 そのシンプルな疑問に答えを見出すべく、146年前の1873年(ジェームズ・ムーアの23.331km)より挑み続けてきた人類は、(UCI公認は1893年アンリ・デグランジュの35.325km)Victor Campenaerts(ヴィクトール・カンペナールツ)によって、ついに55kmを突破! Wigginsの記録54.526kmを563m上回る55.089kmに到達しました。  「実施環境」「トレーニング」「機材」「ピーキング」「ペース配分」 そういった一つ一つの要...

 

 松木です。  前回に引き続きアワーレコードの話。 Victor Campenaerts(ビクター・カンペナールツ)はいかなるウェア・装備を纏いながら55kmを駆け抜けたのか? その理屈とともに掘り下げていきましょう。 【関連記事】  Victor Campenaertsが身に付けていた装備アワーレコード本番中のCampenaertsの姿。 ルール上、ゴチャゴチャ身に付けることはできない代わりに、そのルールの範囲内で出来る限りの策を講じています。【ヘルメット】HJC『Adwatt』バイザー無しエアロヘルメットはHJC『...

 

機材編」「ウェア・装備編」と見てきましたが、
今回はアワーレコード当日までの「準備編」です。

 

成功のために彼が積み重ねてきた
「4ヶ月近い準備」「高地トレーニング」は、
一体どんなものだったのでしょうか?

 

【参考にした記事】

 

Read all our blogs that lead up to Campenaerts' attempt on April 16 or 17 and discover every piece of information that you need... Read more...

 

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アワーレコードの会場にメキシコを選んだ理由

アワーレコードに挑戦するトラックは、
ルールに適合しさえすれば何処でも構いません。

 

Campenaertsが選んだのは……

 

アワーレコードの会場にメキシコ「アグアスカリエンテス」を選んだ理由

メキシコ「アグアスカリエンテス」ベロドローム

 

アワーレコードの会場にメキシコ「アグアスカリエンテス」を選んだ理由

その海抜高度は1880m

空気が薄い、つまりは空気抵抗も小さいことから、
アワーレコードの挑戦地として人気の地です。

 

では、どれほどのアドバンテージが得られるのか?

 

標高 空気抵抗 データ
(縦軸:パワーUPまたはDOWN率、横軸:海抜高度)

イエロー(「空気が薄い=空気抵抗が小さい」によるパワーUP率)」
-「オレンジ(「空気が薄い=身体能力が落ちる」によるパワーDOWN率)」
=「ブルー(正味のパワーUP率)」

 

このグラフによれば、
高度2750mが「ブルー」のピークとなり、
その「正味のパワーUP率」はなんと約+13%

 

アグアスカリエンテスのベロドロームの高度1880mでは870mほど足らず、
「パワーアップ率」は約+11.5%と、少々下がってしまうのですが、

アワーレコードのルールに適合する中ではBESTだと考えられていて、
高度0mと比べ、距離にして1500mものアドバンテージが得られるのだそう。

 

CampenaertsがWigginsを上回った距離は563mでした。

つまり、会場選択を妥協していたならば、
記録更新は叶わなかったかもしれないという事です。

 

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アワーレコード達成までの100日間

1/2~3/3:ナミビアでのトレーニングキャンプ

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

年が明けてすぐ。

南アフリカのナミビアにて2か月間のキャンプを実施。

高度1730m、気温35℃

 

メキシコ「アグアスカリエンテス」の高度1880m、気温30℃に近く、
「高地順応」「高温順応」が同時に実施できるナミビアは、
アワーレコード挑戦に向けた最高のトレーニング環境だと考えられました。
(血液量、赤血球が増える結果、筋肉へのO2供給能力が向上する)

 

ロードバイク 高地 標高 空気抵抗が小さい

アグアスカリエンテスの酸素濃度は、
高度0m地点の79%しかありません。

 

先ほど「1500mのアドバンテージが得られる」とは言ったものの、
あくまで「低酸素下でも本来に近いパフォーマンスを発揮できたら」の話。

そのために十二分な「高地順応」を行うことは欠かせませんでした。

3/4~19:休暇⇒レース「ティレーノ〜アドリアティコ」

キャンプを終えて3月4日にベルギーへと帰宅。

彼女と自由な休暇を過ごします。

 

この間も体調管理に配慮していたのはもちろん、
身体の「高地順応」が解けないようにするため、

必要に応じて低酸素ルームで睡眠したのだそう。

 

ちなみに「低酸素ルーム」と明記されているので、
ちょっとした施設のような、大掛かりな部屋なのだろうと思うのですが、

 

低酸素テント ロードバイク

昨今のご時世、「低酸素テント」なら誰でも購入することが可能こちら

 

30万円弱と、高級ホイールぐらいですね~(^^)

以前に紹介した神Zwifter、Vintinさんも持っているそうですよ(笑)

 

 

 

閑話休題。

1週間弱の束の間の休息を取ったCampenaertsは、
3月11日からイタリアの7ステージレース「ティレーノ〜アドリアティコ」に参加。

 

7ステージレース「ティレーノ〜アドリアティコ」

向かえた最終第7ステージの個人タイムトライアル。

 

2018年の世界選手権TTの勝者ローハン・デニス、
同2位
トム・ドュムランの2人を抑えてのステージ優勝。

 

ナミビアでのトレーニングキャンプの効果を実感すると共に、
1ヶ月後に控えたアワーレコードに良い弾みを付けました。

3/20~4/15(前日):リフレッシュ⇒アワーレコード挑戦の地メキシコへ

「ティレーノ〜アドリアティコ」の終えてベルギーへと帰還。

家族や彼女、友人たちと過ごすリフレッシュ週。

 

それでも、

  • 高度2400mに相当する低酸素ルーム内での睡眠
  • ルーベのベロドロームを使った走行テスト
  • 管理された気候におけるトレーニング
  • 乳酸値測定

など、アワーレコードに向けた準備は怠らず。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

1週間後の3月27日、メキシコへと出発。

 

いち早く時差ボケを解消すべく
渡航中の24時間は起き続けて、
メキシコでの最初の夜をグッスリ眠れるように。

 

そして、メキシコにいる間も基本的には
高度3000mに相当する低酸素ルームで寝るようにしていたそうな。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

アワーレコード当日までの20日間。

 

アグアスカリエンテスの時間・高度・気温に身体を適応させつつ、

会場となるベロドロームにて、
「最短のライン取り練習」「使用ギアの決定」「本番を模したコーチKevinとの連携」など。

 

細かい所まで一つ一つ最適化していくCampenaerts一同。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】 食事

「食事管理」も徹底。

練習量から必要な摂取カロリーを割り出し、
それに応じた食事をシェフが用意してくれました。

言わずもがなPFCバランスも完璧です(^^)

 

 

そんな風に着々とアワーレコードへの準備を進めていき、
残り3~5日からは「リカバリー」へと切り替え。

トレーニングは、鈍らない程度に身体に刺激を入れるのみ。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】 ブルーライト

アワーレコード3日前となる4月13日の朝5時の様子。

ブルーライトを目に当てながらローラーを回し、身体を起こしています。

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】 メラトニン

睡眠リズムは体内のメラトニン量と密接に関係しているのですが、
ブルーライトは、そのメラトニン量を調整する役割を果たします。

 

アワーレコードのスタートは午前11時。

ですが、ホルモン的な観点からすると、
午後に最高のパフォーマンスを発揮できるのだそう。

 

となると、11時というのはスタートには少し早い時間帯……

 

そこで、「11時を午後」だと身体に錯覚させようと
19時にベッドに入って20時~4時半睡眠という”前倒し”の生活リズムに。

 

そのリズムを身体に確立すべく、
17時以降はブルーライトカット眼鏡(メラトニン量⤴)、
逆に、朝にはブルーライト照射眼鏡(メラトニン量⤵)。

 

 

低酸素が凄い!100日前からの入念な準備、緻密な戦略【アワーレコード】

以上の100日間に及んだ緻密で入念な準備の結果、

「自信に満ち溢れていて、メンタルは落ち着いている。
前日でもリラックスしていて、いつも通りに眠れたよ!」

 

最終回『本番編』へと続きます。

 

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