松木です。
「ZIPP」から各パーツのグレードを落とした
コスパ重視のフルカーボンクリンチャーが発売されます。
例えば、クジラのヒレの形からヒントを得るという
バイオミメティック(生物規範工学)なアプローチから開発された「454 NSW」。
『クジラから発想を得たホイール「ZIPP 454 NSW カーボンクリンチャー」のインプレ』
流行に左右されず、独自の理論、膨大な実験を元に、
常に「空力ホイール」の先駆的存在であり続けようとするジップが、
流行りの15~25万というミドルグレードのホイールを開発した真意とは何か?
いくつかの角度から考えてみることにします。
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目次
「ZIPP 302」の基本スペック
実測重量:1652g(F:753g/R:899g)(公表1645g)
リム仕様:クリンチャー(チューブレス不可)
リム高:45mm
リム幅:25.6mm
ハブ:76/176
スポーク:SAPIM CXスプリント
税込定価:207,792円
コストダウンしている部分
①ハブ:「76/176」
「302」のために作られた「76/176」ハブ。
謳い文句は、
「工具要らずで、フリーボディを外せる」
「十分な耐久性と軽さがある」
ということ。
もちろん、ハイエンドホイールに採用される
「Cognition構造」(磁力を利用し、フリーボディ空転時の抵抗を無くすシステム)
などではなく、ごくありふれた普通のハブ。
それから、価格重視で首折れスポーク用です。
ただ、これらのことは、ホイールの性能にあまり関係ないことで、
それよりも「フランジ幅が狭くて、横剛性が出にくそうな形状のリアハブ」
ということのほうが、問題なんじゃないかなと思います。
②スポーク:SAPIM「CXスプリント」
「302」に採用されるのは
SAPIM「CXスプリント」という薄さ1.25mmの扁平スポーク。
このスポークは、
SAPIMの最高グレード「CX-RAY」に比べて、”軽さ”、”空力”で少し劣るものの、
ZIPP「404」や「808」にも採用されているもの。
コストを抑えながらも、妥協したスポークって感じではありません。
ちなみに、ニップルはアルミ(1g/3個)ではなく真鍮製(1g/1個)。
これは「頑丈なホイール」とアピールしたいがための選択です。
③リム:表面加工が無い
「302」に使われるリムは、他のハイエンドZIPPホイール同様、
アメリカのインディアナポリスの自社工場で作られていて、
十分な品質が保証されています。
ただ、上位モデルと差別化するため、
空気抵抗削減効果のある「ディンプル加工」や「独特の模様」は施されていませんし、
ブレーキ性能を高めるブレーキ面の溝もありません。
なので、「303 NSW」のリムに比べて、「302」のリムは非常にシンプルです。
それから、リム幅に関しては、
「303 NSW」が28.5mmなのに対して、「302」は3mmほど控えめな25.6mm。
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他メーカーの同価格帯ホイールとの比較
ZIPPは、何度も世界一に輝いたことのあるメーカーである以上、
仮にミドルグレード「302」であっても、
良いホイールであることは間違いないでしょう。
ただ、「302」がどうにしろ、
他のメーカーの同価格帯に、もっと良いホイールがあれば、
そちらを買うはずです。
『ALEXRIMS ALX845C』
「ALEXRIMS ALX845C」に関する記事↓
『「ALEXRIMS ALX845C」インプレ。有名メーカーを喰うダークホース的カーボンクリンチャーホイール。』
『ZIPP 302』 | 『ALEXRIMS ALX845C』 | |
重量 | 1652g(実測) | 1537g(実測) |
リム高 | 45mm | 45mm |
リム幅 | 25.6mm | 25mm |
スポーク | SAPIM CX-SPRINT | PILLAR製 |
スポーク形状 | 1.2mm/2.25mm扁平 首折れ |
0.95mm扁平 ストレート |
スポーク本数 | F:20本 R:24本 |
F:20本 R:24本 |
スポークの組み方 | F:ラジアル組 R:左右4本組 |
F:ラジアル組 R:2to1クロスラジアル組 |
ハブボディ素材 | N/A | 7075軽量アルミ |
フリーボディ素材 | N/A | 7075軽量アルミ |
ニップル素材 | 真鍮製 | アルミ製 |
ニップルタイプ | 外出しニップル | 内臓(インターナル)ニップル |
税込定価 | 207,792円 | 155,520円 |
リムの部分は、ほぼイーブン。
ただ、「ALX845c」のほうは、
よりエアロなスポーク、より軽量なハブを使い、
ホイールの組み方にも工夫(2to1、内臓ニップル)が見られます。
「302」よりも、速さに対して挑戦的なホイールですが、
反して価格は5万円も安いです。
『SACRA 4G-50-JX-TL』
「SACRA 4G-50-JX-TL」に関する記事↓
『SACRAの新作ホイール「4G-50-JX」「4G-50-CX」が発売されます。』
『ZIPP 302』 | 『SACRA 4G-50-JX-TL』 | |
重量 | 1652g(実測) | 1480±30g |
リム高 | 45mm | 50mm(実測49.6mm) |
リム幅 | 25.6mm | 26mm |
スポーク | SAPIM CX-SPRINT | SAPIM CX-RAY |
スポーク形状 | 1.2mm/2.25mm扁平 首折れ |
0.9mm/2.3mm楕円 ストレート |
スポーク本数 | F:20本 R:24本 |
F:20本 R:24本 |
スポークの組み方 | F:ラジアル組 R:左右4本組 |
F:ラジアル組 R:タンジェント組 |
ハブボディ | ZIPP「76」ハブ | DT SWISS 240s (107g) |
フリーボディ | ZIPP「176」ハブ | DT SWISS 240s (212g) |
ニップル素材 | 真鍮製 | アルミ製 |
税込定価 | 207,792円 | 219,000円 |
価格は「302」のほうが1万円ほど安いですが、
それ以外の全スペックは、SACRA「4G-50-JX-TL」のほうが上。
SACRA「4G-50-TU」で走った感触から判断して、
「巡行性」「軽さ」「駆動剛性(=加速性)」といった重要な走行性能は
「4G-50-JX-TL」のほうが優れているでしょう。
その根拠を知りたいなら、下の乗車インプレを読んでもらいたいですね。
『SACRAホイール50mmをインプレ・レビュー「横風」「ブレーキ」「急登坂性」「快適性」』
『SACRAホイール50mmをインプレ・レビュー「巡行性」「加速性」「緩登坂性」「剛性感」』
※追記 実走インプレッション
ロードバイク歴30年の自転車フリーライター
吉本司さんの実走テスト。
突出した性能は無いものの、
20万なりの性能と、バランスを兼ね備えているようです。
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今回は同じタイヤを履いて303と乗り比べたが、
低速加速は302のほうが外周部の軽さに起因するような動きの軽さを得られる。
しかし、中・高速域、高負荷域の走りとなると、
ホイール剛性の高さと空力面の利点ゆえ、
303のほうが推進力は明らかに強く、
かつスピードの伸びにも優れる。
やはり303と乗り比べると302の性能は物足りなく思えるのだが、
両者の価格差は7万円以上あるのでやむなしだ。
とは言え、アンダー20万円のカーボンホイールとして考えれば、
302のコスパは十分に優秀なものだろう。
303よりも特に低速時の動きに癖がなく、
全速度域で扱いやすい印象があり、
上りから平地まで性能の穴らしい穴はない。
したがって、
始めてカーボンホイールを手にするようなライダーにとっても使いやすい。
また、見た目にも安価な印象はなく、
高級車に合わせても違和感はないので、
上級者の普段履きの一本としても満足できるだろう。
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シクロワイアードのインプレ記事↓
結論:「ZIPP 302」よりも良いホイールがある
先ほど引き合いに出した2種類のホイールと比較してしまうと、
「ZIPP 302」は中途半端なホイールだと言わざるを得ません。
5万も安い「ALX845C」のほうが、
重量はだいぶと軽いですし、
登りでも十分使える”走りの軽やかさ”を感じられるはずです。
それに「ハイローフランジハブ」「インターナルニップル」など、
細部にもこだわりがあり、ホイール性能の底上げが成されています。
また、ほぼ同じ価格の「4G-50-JX-TL」は、
誰もがカーボンディープリムホイールに求めるであろう
”伸びのある走り”を抜群に感じられます。
その「巡行性」は、30~40万クラスのホイールに匹敵するものです。
ジップ「302」が、ただ単に価格を抑えただけのホイールなのに対して、
アレックスリム「ALX845C」とサクラ「4G-50-JX-TL」の両者とも、
その価格で実現できる限界性能を追求しているように感じます。
他にも同価格帯に良いと思えるホイールはいくつか思いつきますし、
なので、そんな中から敢えて「302」を選ぶ理由が見当たりません。
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